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 それは、カナタと無事に仲直りをした数時間後──早朝のことだ。 「さて、と」  自室に戻ったツカサは一度、声に出して気合いを入れる。  それから自室にある机の引き出しを、おもむろに開けた。 「きちんと、細かく切り裂いてから捨てないとね。そもそもの原型が【手紙】とか【メモ】だと思われないように、ただのゴミクズにしなくちゃ」  ハサミを用意しながらそう言うツカサが、引き出しから取り出した物。……それは、どう見ても【手紙やメモ】だった。  そこには、愛の言葉や連絡先が書かれている。当然ツカサ宛てではないし、ツカサが書いたものではない。 「カナちゃんはおバカさんで可愛いなぁ。手紙とメモは断るんじゃなくて、むしろ、一回受け取っちゃった方が絶対いいのにさ。……まっ、その愚策的対応を吹き込んだのはマスターだろうけど」  数回だけ、ツカサはハサミで、なにもない空間をシャキシャキと意味もなく試し切り。 「仲介役を引き受けて、さも本人に渡したような態度を見せて、実際には渡さず、跡形も無く処分をしてしまう。そうすればカナちゃんは気付かないし、カナちゃんに色目を使うバカ共は勝手に勘違いをする。『この気持ちは返事をする価値もないものだと思われたんだ』とか『返事ができないほど困らせてしまった迷惑なものだったのかも』ってね」  口角を上げて、ツカサは一枚の手紙にハサミを当てる。 「渡すよう頼まれたものを『渡せない』って断ったなら、ソイツ等の恋情は終わらないよ。だって、そもそもスタート地点に立っていないんだからね? でも、受け取って渡したフリをすれば、後は相手側が勝手に自滅してくれる。【恋】って、人をネガティブでどうしようもない臆病者にする奇病だからね」  手紙──名も知らない人間の恋心を、ツカサは細かく小さく刻んでいく。  まるでそんなもの、初めから形を持っていなかったかのように……。 「可愛い可愛い、俺だけのカナちゃん……ッ。ヤキモチなんか焼いちゃって、本当に可愛いなぁ……ッ。俺なら誰かからの手紙を受け取った後、トラウマ級の振り方をしてあげるのにさ……ッ」  手紙を処分した後、ツカサは使い終わったハサミを丁寧に拭き始める。 「モチロン、カナちゃんに色目を使った奴等にも同様の仕打ちをしているけどね。……でもそれは、カナちゃんにはナイショにしなくちゃ。万が一、億が一にでも嫌われたくないからね」  ハサミを片付け、ただのゴミとなった【手紙だったもの】を小さな袋に詰める。 「だけど、こうしてカナちゃんを陰ながら守っている俺のことは褒めてもらいたいなぁ。だってカナちゃん、俺のことを甘やかすの上手なんだもん。あんなの、一回されたらクセになっちゃうよ……っ」  すぐに、ツカサは顔を上げた。 「あっ! そろそろカナちゃんを起こさなくちゃ! 今日はとってもいいことをしたから、久し振りにこっそり寝顔を撮ろうかなっ? そのくらいなら、ご褒美としてもらっても怒られないよね、うんっ!」  後片付けをしたツカサは自室から出て、隣にあるカナタの部屋へ向かう。 「……それにしても、あのモグラのぬいぐるみ。カナちゃん、なにかの間違いで捨ててくれないかなぁ……? アレ、ジャマなんだよなぁ、消えちゃえばいいのになぁ……」  ……しかし、それから数秒後。  ベッドの上で寝息を立てるカナタが両腕で抱き締めていたのが【ペンギンのぬいぐるみ】だと確認したツカサは、上機嫌になりながらスマホの無音カメラ機能を起動させたとか。  めでたし、めでたし。 11.5章【そんなにモテないで】 了

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