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 後始末を終えた後に一度、ツカサはカナタの部屋から退出した。  それから、すぐ。おそらく隣にあるツカサの部屋に行って戻って来たくらいの時間で、ツカサはカナタの部屋に戻って来た。 「はい、コレ。カナちゃんにプレゼント」 「これって……ペンギンのぬいぐるみ、ですよね?」 「そうだよ。ちなみに、俺も同じのを持っているんだっ」  ツカサから手渡されたのは、四十センチほどの大きさにより割と存在感が大きく感じられるペンギンのぬいぐるみだ。カナタは大きく柔らかいペンギンのぬいぐるみを受け取り、そのままギュッと抱き締めてみせた。  まさか今晩──と言うか、昨晩。ツカサがカナタの部屋に来るのが遅かったのは、このぬいぐるみを買いに行っていたからなのか。カナタはペンギンから顔を上げて、ツカサを見る。  隣に座ったツカサは、カナタが抱いているペンギンをつついた。 「……ねぇ、知ってる? ペンギンの【番】についての話」 「つ、がい? いえ、たぶん……知りません」  不思議そうにしながら、カナタはツカサを見つめる。  その無垢な視線に気付いたツカサは、カナタの頬に手を添えた。 「ペンギンってね、凄く一途なんだよ。一度【番】として決めた相手以外とは付き合わないし、選んだ相手とは一生添い遂げるんだって」  頬を撫でる指が、カナタの目元をそっと撫でる。 「だから、ペンギンのぬいぐるみにしたんだよ。……俺からの気持ち、受け取ってくれる?」  微笑み、優しい手つきでカナタを撫でる恋人。  しかしそれらの言動は、まるで『よそ見なんか、絶対に許さないからね』と言っているようで……。  思えば、ツカサはいつだって【嫌なこと】を口にしていた。されたくないことも、してほしくないことも……ツカサは、カナタだけではなく他者に気持ちを開示していたのだ。  それに比べてカナタは、ほんの少し腹を立ててしまった理由を打ち明けることにすら時間をかけて……。 「……ツカサさん、ごめんなさい。今日──昨日は、みっともなくあんなに怒ってしまって」  冷静さを完全に取り戻したカナタは、深夜という理由は含まず、声を潜めて呟く。 「ツカサさんが浮気をするなんて、オレは思っていません。それでも少し、オレは『嫌だな』と思ってしまいました。ツカサさんがモテちゃうのが、嫌で。オレのツカサさんなのに、なんだかベタベタと触られているような感じがして……」  貰ったばかりのぬいぐるみを抱き締めたまま、カナタは顔を上げる。 「──だから……ツカサ君も、よそ見……しないで、ね?」  珍しく、カナタの顔は赤くない。……きっと、それどころではないのだ。  不安気な眼差しでツカサを見つめながら、カナタはぬいぐるみを抱き締める腕に力を込める。さながら、縋っているようだ。  ……だが、ツカサからの返事は決まっている。 「モチロンだよ。俺には徹頭徹尾、カナちゃんだけ。浮気なんかしないし、カナちゃん以外を相手にしたところで僅かばかりも心は動かない。この気持ちと言葉が本当だって、他の誰でもないカナちゃんに誓うよ」  答えた後、ツカサはカナタの目元にキスを落とした。  優しい答えと、口付け。そうされると胸がいっぱいになってしまうのだから、カナタはどこまでいっても単純な男なのかもしれない。 「……ねぇ、ツカサ君」  ツンと、カナタはツカサの袖を引く。 「──もう一回、エッチ……シたい、な……っ」  今度のカナタは、普段と同じ。……顔が、赤くなっている。 「あざとい、かな……っ? はしたない、よね。……エッチな男で、ごめんなさい……っ」  強請ると同時に、羞恥心が勝った。恥ずかしさから俯いたカナタは、ボソボソと謝罪の言葉を紡ぐ。  すると不意に、カナタの体がベッドに押し付けられた。 「あっ、ツカサさん……っ」 「うん、いいよ。もう一回、シよっか。俺も、もっとカナちゃんとシたい」 「でも、もう結構夜更かしして──あ、っ」 「カナちゃんは寝坊しちゃってもいいよ。その分、俺はカナちゃんを独り占めできるからさ」  今度は、目元ではなく唇に。ツカサはカナタにキスをしてから、微笑んだ。 「さっきは【仲直り】のエッチだったけど、今度はちゃんと【仲良し】のエッチをシよう? いっぱい甘やかしてあげるね、俺だけのカナちゃん」  真っ直ぐと見つめられ、降り注ぐ甘い言葉。  誘ったのはカナタの方だというのに、カナタはまるで顔を隠すかのように、ペンギンのぬいぐるみを抱き締めた。

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