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それにしても、やはりツカサは様子がおかしいらしい。
家でも一緒にいるカナタだけではなく、仕事中にしか顔を合わせないリンも言っているのだ。こうして証拠が揃うと、やはりカナタの杞憂ではなく確実に『ツカサの様子がおかしい』ということになる。
そうなると、カナタはツカサ本人に突撃したいところではあるが……今回は、きっかけとなりそうな原因が原因だ。カナタはツカサにとって【恋人兼婚約者】という立場にはあるが、迂闊に踏み込んでいいのか判断に困る。
リンからの参考になりそうでならなさそうなツカサ情報をサラッと受け取りつつ、カナタは『どうしたものか』と眉を寄せた。
リンとの掃除を終えた後も、カナタは頭を捻り続ける。
掃除道具を片付けていると、背後からリンでもツカサでもない人物が現れた。
「どうしたんだい、カナタ? なんだか浮かない表情だねぇ?」
「あっ、ウメさん……」
パッと後ろを振り返り、カナタは背後に立つ人物──ウメを見る。
「ツカサさんの様子が、ここ最近おかしいなと思って。……心配、で」
「だけど直接訊くには勇気が足りなくて、かと言って放っておくこともできないからどうしようかってところかい? 相変わらず、アンタたちは笑っちまうほどお互いのことしか考えていないねぇ?」
「うっ。……そ、そう、でしょうか?」
カナタはギクリと胸をざわめかせつつ、ウメから視線を外した。
「たぶん、ですけど。最近のツカサさんは、オレが原因とかじゃなくて……っ。オレじゃ、なくて、ですね……っ」
言って、良いのか。思わず、カナタは出かけた言葉を抑え込む。
ツカサの様子がおかしいのは、確実に【母親】が原因だ。そのことを話せば、ツカサが過ごした幼少期を知っているはずのウメからは納得と理解が示されるだろう。
だが、今のツカサが【母親のことで悩んでいるかもしれない】と、ツカサの許可もなくウメに話していいのか。ここにきてカナタは逡巡し、口を閉ざした。
黙り込むカナタを見て、ウメはため息を吐く。
「皆まで言わなくていいよ。ツカサの様子がおかしくなる理由なんて【アタシが帰ってくる】か【カナタが誰かに言い寄られる】か……それ以外を除けば、ひとつだけさ」
「なんだか、すみません……」
「否定しないところを見ると、アンタも随分ツカサに染まってきたねぇ」
「嫌ではないけどさ」と付け足して、ウメは肩を竦める。
この様子を見ると、どうやらウメもツカサの不調には気付いているらしい。カナタは眉尻を下げながら、ウメを見つめた。
「オレ、なにをしてあげられるでしょうか。……なにか、してもいいのでしょうか」
「なんだい、随分と弱気だね? 今のツカサには、呆れて物も言えないってことかい?」
「そんなわけありません! ……そういうわけでは、ないのですが……っ」
あまりにも、デリケートすぎる。あのツカサが表面で取り繕うこともままならないほど根深い出来事に、カナタが触れてもいいのか。……カナタは相変わらず、自信がないのだ。
再び黙ってしまったカナタを見て、今度はため息ではない吐息がウメの口から漏れ出る。
「世界中の誰も許さなくたって、カナタだけはなんでもオッケーさ。……ツカサって奴は、そういう男だろう?」
「……っ」
「なら、もっと厳しい言い方をしようか? ……アタシの目には、アンタがこう見えている。『ツカサさんを傷つけたくないわけじゃなくて、オレはオレが傷付きたくないだけだ』って。『だからオレは、ツカサさんに踏み込み切れないんだ』って」
なにも、言い返せそうにない。……きっと、図星だからだ。
図星、だからこそ……。
「……カッコ悪い、ですね。ウメさんの前に立っているオレって」
「そうだねぇ。少なくとも『実の子供にすら上手に接せられない』ってウジウジ悩んでいた過去のシグレに似ているとは思うかな。ちなみに今のシグレなら、思い立ったがウルトラハッピーデイだよ」
「【吉日】を超えちゃうんですね……」
思わず、苦笑する。
それからカナタは小さな笑みを浮かべつつ、ウメと共にホールへと戻った。
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