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カナタにとってツカサは、格好いい男だ。
それは、外面だけではなかった。いつも自分の言動に責任を持っていて、それを『恥ずかしいことだ』と自分で否定しない。凛としていて、カナタが憧れる【自分らしさの表現】をできている、理想的な人間。……少々、度が過ぎているときもあるが。
なにはともあれ、カナタにとってツカサは人としても尊敬できる相手だ。恋人としてだけではなく、カナタはツカサ自身によって何度も救われてきた。
……ふと、カナタはマスター宅の通路を歩きながら考える。
「ツカサさんはいつも、どんな気持ちでオレの悩みを聴いてくれていたんだろう……」
可愛いものが好きだと打ち明けられない、ちっぽけな自分。……ツカサにとっては全く無縁で、正直どうだっていい悩みだっただろう。
それでもツカサは、親身になって言葉をくれた。落ち込むカナタに微笑みを向けて、心底不安そうにカナタを見つめて、カナタに寄り添おうとしてくれたのだ。
それを、カナタは返したい。
……否。
「──【返す】じゃなくて、オレはツカサさんに【与えたい】のかな」
茶化しながらも隣に立ってくれたリンのおかげなのか、ウメから向けられた言葉のおかげなのか。カナタはぐっと体に力を入れて、足取りをしっかりとしたものへ変える。
そのまま、カナタはダイニングへと向かった。
「ツカサさん。少し、お話してもいいですか?」
夕食の準備をする、ツカサと話すために。
ツカサは一度だけ手を止めて、カナタを振り返る。
「……あぁ、カナちゃん。うんっ、モチロンっ。カナちゃんが相手なら、寝ているときだって大歓迎だよっ」
普段通りのツカサに、周りからは見えるのかもしれない。
しかし、カナタには分かる。ツカサらしくない、刹那的ではあるが異様な間がある、と。
カナタは料理をしているツカサの隣に移動し、微笑むツカサを見上げた。
「最近、なんだか元気がないように見えます。……それって、ツカサさんのお母さんが原因ですか?」
カナタからの問いに、ツカサは苦笑する。
「ちょっと意外だなぁ。カナちゃん、直球どころか剛速球を投げる子だったんだね」
「あっ、ごめんなさい……っ。確かに、急すぎましたよね……っ」
「ううん、いいよ。俺としてはそこそこうまく隠していたつもりだったけど、ヤッパリ分かり易かったよね。だから、俺の方こそごめんね? 気遣わせたり、心配とか不安な思いとかをさせちゃったりして」
「そんな……っ! オレは、謝ってほしいわけじゃなくて……っ」
なんて、ヘタクソなのだろう。ツカサのようなスマートさが出せない自分に、カナタはガッカリする。
しかし当然、ツカサはカナタが『ツカサを責めているわけではない』と分かっていた。その証拠として、申し訳なさそうにしてはいるもののカナタの言葉に笑みを浮かべているのだから。
ツカサは包丁をまな板の上に置き、言葉を続けた。
「なんて言えばいいのかな。……あの日からずっと、一人になると【不必要なこと】ばっかり考えちゃうんだ。自分で言い出したことなのに、変だよね」
隣に並んだまま、カナタはツカサの顔を見つめる。
「ツカサさんはいったい、なにに悩んでいるんですか?」
原因は、確実に【ツカサの母親】だ。それは、カナタにも分かる。
しかし見方を変えれば、カナタには【それしか】分からなかった。『ツカサが悩んでいる』と理解していても、詳細が分からなくては意味がない。題名だけが分かっていても内容が分からないのでは、コメントができないのだ。
調理の手を止めたまま、ツカサはカナタを見下ろす。
すぐに目が合い、ツカサはニコリと笑って……。
「──そっか! これからは四六時中カナちゃんと一緒にいたらいいんだっ! そうすれば【一人の時間】がなくなるもんねっ!」
「──もうっ! そういう話じゃないですよっ!」
わざとらしいほど楽しそうに、本気か冗談か判断の付かない提案をし始めた。
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