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 結局ダイニングではそれ以上、ツカサを問い詰められなかった。  すぐに【カナタを口説いて楽しむモード】に入ったツカサにより、カナタは顔が真っ赤になるまで口説かれ続けたのだ。  それからいつもと同じように四人で食事をして、マスターとウメがツカサによって生命の危機に陥り、カナタがなんとか空気を穏やかに保ち、時が流れて……。 「──今度は逃がしませんからね!」  就寝準備を全て終えた後、カナタはツカサの部屋に突入していた。  ちなみに、きちんとノックをして入室の許可は取っている。強引なように見えて、カナタは相も変わらず気遣い屋さんだった。  扉の前で仁王立ちしたカナタは、後ろ手で扉の鍵を閉める。……目を向けずに鍵を探し出すのに苦労し、必要以上に手を動かしはしたが。  鍵を閉めたカナタがムンと胸を張ってツカサを見つめると、なぜか問い詰められているはずのツカサが……。 「まさか、カナちゃんの方から俺を監禁してくるなんてね。前に『監禁なんてしないよ』とは言ったけど、逆の可能性は考えなかったなぁ。……どうしよう、結構ドキドキするね? いっそのこと、俺のことを縄で縛ってみる?」 「──その手には乗りませんよっ!」 「──素直な感想に対して随分と辛辣だねっ?」  ガガンとショックを受けつつ、ツカサは困ったように後頭部を掻き始める。 「だけど、カナちゃんから逃げているつもりはないよ。問題が目の前にあることは重々承知しているし、イヤってほど理解もしてる。だから、正しく言うのなら『目を逸らしている』ってところかな。モチロン、俺が目を逸らしているのは【カナちゃん】じゃなくて【問題】からだよ」  最後に「そっちの方がカッコ悪いか」と苦笑して、ツカサは瞳を伏せた。 「カナちゃんに心配させちゃうなんて、恋人以前に年上として情けないな。しかもこんな、らしくない監禁ごっこまでさせちゃって。……ごめんね、カナちゃん」 「気になる部分はありますが、一先ずツッコミは保留しますね」 「今日のカナちゃんはキリッとしていてカッコいいね。惚れ直しちゃうよ」 「──オレは大事な話を茶化すツカサさんが、一周回って可愛く見えてきましたよ……っ!」 「──えっ、ホントにっ? なんだか照れちゃうなっ」  実に、二人らしいやり取りだ。シリアスな空気のはずなのに、カナタはツカサの言葉によって頬を赤く染めている。  カナタはジッとツカサを見つめて、一歩だけ距離を詰めた。 「ツカサさん、聴いてください。……オレ、別にツカサさんのお母さんに挨拶できなくてもいいんですよ?」 「それって、本気で言ってるの? それは本当に、カナちゃんの噓偽りのない本心?」 「確かに、正直に言うと親への挨拶もなしに結婚をするのは……少しだけ、気が引けます。可能なら、挨拶をしたいです。だけど、ツカサさんの場合は別です。無理強いすべきではないと思いますし、そもそもそういった枠組みでお話していい相手でもないと思っています」  もう一歩、カナタはツカサに近寄る。 「前に、変化についてツカサさんと話しましたよね? オレは、ツカサさんのおかげで、自分を少しずつ『変われているかな』と思えるようになりました」 「カナちゃん……っ?」 「ツカサさんも、変わっています。とても、いい方向に変わっていると思います。……だけど、こんなふうにツカサさんを落ち込ませてしまうくらいなら、オレは──」 「──待って、カナちゃん」  言葉を挟むと同時に、ツカサは開いていた距離分、カナタに近付く。  すぐにツカサの冷えた手が、カナタの口をそっと塞いだ。 「ダメだよ、カナちゃん。それ以上は言ってほしくないし、言わせたくない。キミの気持ちも優しさも、分かっているつもりだから。……だから、それ以上はどうか言わないで……ッ」  続く言葉を、ツカサは理解していたらしい。  カナタだけではなく、リンやウメにまでバレてしまうほど露骨に態度が変わってしまうのなら。様子がおかしくなってしまうのならば、いっそ……。  ──ツカサが変われなくても、カナタは……。  ……カナタがそう続けると、ツカサは分かっていたのだ。

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