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最終章【そんなに可愛がらないで】 1

 互いの両親に挨拶を済ませてから、数日後。 「なんか、その。……結構、あっさりと受理されちゃったね? オレ、まだちょっと実感がないかも……」  カナタは明るい日差しを浴びながら、ツカサと共に外を歩いていた。  場所は、役所の前。……今しがた、カナタはツカサと婚姻届けを提出したばかりだった。  手を繋ぎながら歩き、不服そうにカナタは唇を尖らせているが……。 「確かに、俺としては随分と前からカナちゃんと結婚していたような感覚だったし、改まって【実感】っていうものはないかも」  対するツカサも、別の意味で唇を尖らせているようだ。  まるで同意しているかのような口ぶりだが、カナタとはそもそものテーマが全く違う。……あえて、ツッコミは入れないが。  身内からのアシストにより難なく書類を用意できたカナタとツカサは本日、サクッと戸籍上で家族になれたのだった。 「でも、ビックリしちゃったなぁ。朝起きたら、ツカサ君が笑顔で『今日、俺と結婚しよう』って言って、オレに指輪を渡すんだもん。たぶんだけど、今後もうなにが起きても今日以上に驚くことってないよ、きっと」 「じゃあ、俺が今ここでいきなりカナちゃんにキスしても驚かない?」 「今朝の驚きには負けちゃうけど、それを抜きにしても往来の場では駄目だよ?」 「ちぇっ。俺のお嫁さん、結婚初日でも厳しいなぁ。……そんなところも大好きだけどね」  不意打ちの告白に、カナタの頬はポンッと赤くなる。そんなカナタの様子を見られて、ツカサはご満悦そうな様子だった。 「それなら、少し真面目に返事をすると。……恋人状態を続けるのも悪くはないけど、今朝ピンときちゃったんだ。『そっか。【恋人気分】ならいつでも楽しめるか』って。だから、思い立ったがなんとやらだよね」 「相変わらず、ツカサ君は行動力の化身だね……」 「そんなに褒めないでよ。今すぐカナちゃんにキスしたくなっちゃう」 「『駄目』って言ったのに、まだ諦めてなかったのっ?」  素直すぎるツカサの返事に、カナタはギョッとする。 「……だけど、さ。なんだがここまで、とても長い道のりだった気がするよ」  手を繋いだまま、ツカサは言葉を紡ぐ。 「初めて人を好きになって、その感情を持て余して、自分が自分じゃなくなるようで。変化が怖いのに、変わっていく自分は存外悪くもなくて。そして結局は、変わったキミをさらに好きになって。……本当に、長かったなぁ」 「……うん。そうだね」 「だけど、俺はそれを【遠回り】だとは思わないよ」  自分より背の低いカナタの顔を覗き込んで、ツカサはニコリと笑う。 「カナちゃんにとっても、同じだといいな」  威圧的でもなければ、高圧的でもない。心の底から純粋に、ツカサはカナタとの【お揃い】を望んでいた。  笑みを向けられたカナタは小さく肩を揺らしながら笑い、浮かべてしまった笑みをそのままにツカサを見つめ返した。 「うん、同じだよ。オレも、ツカサ君と過ごした日々は全部大切だったから。……だから、全部が【必要】だった。全部が、ないと駄目だったと思う」  ジッと見つめ合い、互いに笑みを向け合う。  ……が、すぐに。 「──でも、往来の場でキスは駄目だよ?」 「──ちぇ~っ」  カナタは眉をキッと吊り上げて、浮かれまくっているツカサにピシャリと言い切った。  ツカサから貰った指輪をはめた左手を、ピシッとツカサの前に広げながら。

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