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 夕方と夜の境目になった頃、カナタは裸のままベッドに寝そべっていた。 「オレ、少しだけ考えたの。……ずっと『オレが【ホムラ姓】になろう』って思っていたけど、逆の方がいいのかなって」 「それって、俺がカナちゃんの苗字になるってこと?」  カナタと同じく裸のまま、ツカサはカナタに腕枕をしている。  身を寄せながら、カナタはコクリと頷いた。 「ツカサ君にとって、お母さんとの思い出は苦しいのかなって。そう思うと、ツカサ君の中からお母さんを切り離した方がいいのかもしれないって。記憶を消すことはできないけど、名前だけでも変えた方がいいのかなって。……今朝までずっと、本気でそう考えちゃって……」 「それを俺に話すってことは、気持ちが変わったってことだよね?」  もう一度、カナタは頷く。 「ツカサ君には、家族が必要だった。ツカサ君のお母さんはもういないけど、オレは【残った家族の絆】を切り離しちゃうところだったんだって。……そう、お墓で泣くツカサ君を見て気付いたの」  カナタは目線をツカサへと向けて、照れずにしっかりと気持ちを口にした。 「──ツカサ君がオレの家族になるんじゃなくて、オレがツカサ君の家族になりたい。……だから、オレを【カナタ・ホムラ】にしてほしい」  少し前までのカナタならば、ここまでハッキリと自分の考えを口にできただろうか。  仮に今と同じところへ思考回路が辿り着いていたとしても、以前までのカナタならばもっと申し訳なさそうな顔をしただろう。  それでも、今のカナタは違った。真っ直ぐとツカサを見つめ、淀みなく自分の想いを口にしている。  ──自分の好きなものに、胸を張りたい。……まさに、今のカナタは目標を体現しているようだった。  想いを伝えられたツカサも、少し前までならば狼狽えていただろう。ツカサが最初に求めたのは【ツカサの庇護が必要な弱いカナタ】だったのだから。  しかし、今のツカサは目を細めて……眩しい輝きを見つめるようにしながらも、どこか満ち足りたような笑みを浮かべている。 「初めからそのつもりだったけど、今ではより強くそう思うよ。俺は、カナちゃんを俺の家族にしたい」  ──弱くて、自分の弱さに甘えたまま【変化】が勝手に訪れることを願っていた少年と。  ──強がって、虚勢を貼り付けたまま【変化】が訪れることを誰よりも拒み続けた青年が。 「──結婚しよう、カナちゃん。一生を懸けて、俺と言う全てを捧げて、なにもかもを尽くして。……必ず、カナちゃんを誰よりも幸せにするから」 「──うん。オレも、ツカサ君を誰よりも一番幸せにするね?」  今では自身の変化と、パートナーの変化に笑みを浮かべている。  カナタがツカサに飛びつくかのように抱き着くと、ツカサもツカサですぐにカナタの体に腕を回した。 「なんだかオレたち、色々なことを沢山誓い合っているよね?」 「だね。でも、まだまだ足りないかなって思う。俺のカナちゃんへの愛は、こんなものじゃないからさ」 「むっ。それはオレだってそうだもん。オレ、これからもっともっとツカサ君を好きになるよ? 今以上に、いっぱい好きになるんだからねっ?」 「残念でしたっ。俺の愛はいつだってカナちゃんの上を行っているよ? だから、俺の方がいっぱい好きなんだよねぇ」 「むぅ~っ! オレの方が上だもん! 上になるもんっ! と言うより、もう上なんだからねっ!」 「あははっ! 対抗しながらむくれるカナちゃん、可愛いなぁ~っ」  唇を尖らせているカナタに、ツカサは笑みを浮かべたままキスを贈る。 「愛しているよ、カナちゃん。未来永劫、今世だけじゃなくその先もずっとずっと。……俺は、キミだけが好きだ」 「オレも、ツカサ君が大好き。結婚した後も、ずっとずっと大好きだよっ」  こんなふうに、誰かを好きになるとは。ツカサは当然として、カナタも思っていなかった。  それでも不思議と、こうなるのが自然に思えて。こうなったことが、まるで必然にも思えた。  二人は互いの顔を見つめ合い、どちらからともなく照れたように笑い。  ……そうしてまた、キスを贈り合った。 12章【そんなに愛を誓わないで】 了

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