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最終章 : 3

 相変わらずすぎるツカサとマスターのやり取りを見て、リンがこっそりとカナタに近付いた。 「結婚、本当におめでとう」 「リン君。ありがとう」 「僕には結婚願望がないし、そもそも人を好きになりたいって願望すらないんだけどさ。でも、カナタ君のことは友達として大好きなんだ。……だから、二人の結婚は本当に祝福してるよ。本当に、本当におめでとうっ」 「なんだか、改まってそう言われると照れちゃうよ……っ」  カナタにとって、友達らしい友達はいなかった。恋愛相談をする相手も、こうして談笑をできる相手も、ずっとずっといなかったのだ。  ツカサに出会えたことだけではなく、リンと出会えたこと。この出会いも、カナタが喫茶店に来たことで得られたものだ。カナタにとってリンとの出会いも、大切なものだった。  じんわりと広がっていく温かな気持ちに、カナタは微笑みを浮かべる。その気持ちが伝わったのか、リンも照れたように笑い──。 「──ちょっと、なに? 俺のカナちゃんに近いんだけど」 「──あぁ~っ、お約束展開だ~っ!」  すぐさまツカサに首根っこを掴まれ、強制的にカナタと距離を作られてしまった。……それでもリンの笑みはますます輝きを増し、不思議と楽しそうではあるのだが。 「ホムラさんも、結婚おめでとうございますっ!」 「その【ついで】って感じがなんかムカつくし、大前提に俺はキミから祝福されても嬉しくないし、あとカナちゃんに近いからムカつく」 「あはは~っ。助けて、カナタ君~っ」  バタバタと両手を振るリンをどうにか解放するようカナタが説得し、ようやくツカサはリンを解放する。 「言っておくけど、俺はまだキミのことを赦していないからね。俺より先にカナちゃんから相談を受けたキミを、いつか絶対に……」 「……えっ、なんですか? どうしてそこで言葉を区切って──黙って笑うのはやめてくださいっ! 僕、ホムラさんからそこまで眩しい笑顔を向けられたの地味に初めてなんですけどっ!」  どうやら、ツカサとリンも少し特殊な関係性らしい。今のカナタからすると、微笑ましく見えるが。  各々、思い思いの絡み方をカナタとツカサにしている。その様子を眺めて一人、満足そうに笑う女がいた。 「さてと。アンタたちの結婚も見届けたし、そろそろアタシは趣味の旅にでも出ようかねぇ」  体を伸ばしながら呟いたウメを、ツカサが素早く振り返る。 「えっ、ホントにっ? ヤッタ!」 「ちょっと、ツカサさんっ!」 「結婚への祝福より喜ばれると、一周回って面映ゆいじゃないかい」  相変わらずどころの話ではないツカサに笑みを向けつつ、ウメはカナタに近寄り、ポンと肩を叩いた。 「うっかり孫が増えていても、アタシは怒ったりしないよ」 「オレは男なので、赤ちゃんは産めませんけど……」 「と言うことは、カナタが【ウケ】ってやつなんだね? まぁ、逆はちょっと想像できないって言うか、したくないけどさっ」 「あっ! うっ、うぅ~……っ」 「──早く出ていけよ」  ケラケラと笑うウメを見て、マスターもリンも楽しそうに笑っている。 「いやぁ~っ、本当にめでたい日じゃのう~っ!」  まるで代表するかのようにマスターがそう言うものだから、カナタは照れ笑いを浮かべながら頷きそうになった。  しかし、すぐに──。 「──まぁ、それでも開店はするんじゃがな」 「──ですよねぇ」  ツカサだけではなくここにいる全員が、いつも通りなのだと。カナタはすぐに実感し、痛感したのであった。

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