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最終章 : 4
結婚をしたからと言って、なにかが変わるわけではない。カナタはどこかで、そう思っていた。
だが、どうやら思っていたよりも【結婚】という変化は大きなものらしく……。
「──えっ! カガミ君、結婚したのっ? しかも、ホムラさんとっ?」
「──うそっ! あっ、本当だっ! ネームプレートが変わってる~っ!」
カナタの左手、薬指。そこにはめられている指輪と、昨日までとは変わってしまったネームプレート。そのふたつを見て驚くお客様が、予想外なことに多かったのだ。
オーダーを受けようとしていたカナタは、女性客の驚きをしっかりと受け止める。……ちなみに、この女性客たちは常連だ。さらに言うのであれば、どちらもツカサのファンである。
カナタは勢いに気圧されそうになりつつも、より見やすいようにと、左手を前に出した。
「はっ、はいっ! 結婚、しましたっ!」
「「キャーッ! おめでとう~っ!」」
「あっ、ありがとうございますっ!」
カナタは震えそうになる足を心の中で叱咤しながら、拍手を送ってくれている女性客を見る。
「な、なので、そのっ! ……もう、ツカサさんにラブレターを渡すとか、連絡先を渡すとか……そっ、そういうのは、や、やめてください……っ!」
持てる勇気全てを出して、カナタは頭を下げた。
余談ではあるが、カナタはずっとずっとこの言葉を用意していたのだ。しかしそれは、ツカサとの仲介役を頼まれた時にしか発揮していなかった。
最近用意したばかりの、カナタにしては気が引ける言葉。今日だけで何度、この言葉を口にして頭を下げただろう。
そして、その度に……。
「「──きゃ~っ! カガミ君、可愛い~っ!」」
「えっ、あのっ、わわっ!」
なぜかカナタは女性客たちから悶えられ、手を握られたのだった。
「応援するね、カガミ君っ! 私たちはホムラさんのファンだけど、ちょっと前から二人の仲を応援していたんだからっ!」
「あっ、そ、そうなんですかっ?」
「それはそうだよ~っ! だってホムラさん、カガミ君にベタ惚れだったじゃないっ! はぁ~っ、尊いっ! 新婚も尊い~っ!」
「えっと、あのっ。ありがとう、ございますっ?」
「「──あっ、今は【ホムラ君】だったねっ!」」
「──お客様が全員、オレの想像と反応が違うのはどうしてなんですかぁ~っ!」
カナタが想像していたのは、悲しみと憎悪。憧れのツカサを奪われ、しかも我が物顔で『手を出すな』と言われるのだ。泣かれるか怒られるかの二択を想像するのは、当然だろう。
それなのにカナタは来る客来る客から見事に応援され、祝福され、あろうことか想像とは真逆の表情を向けられるのだ。これがキャラではないと分かっていながらも、叫ばずにはいられないだろう。
……ちなみに、カナタがこうして戸惑いながらも感謝などを伝えている間。店の奥がどうなっているかと言うと……。
「ツカサ、やめな。結婚初日に投獄なんて、シャレにならないよ」
「お客様の代わりに身内で手を打ってください、ホムラさん」
「そうだね、そうしよう。……マスター。ちょっと裏口に来てくれる?」
「なぜ三分の一で毎回ワシを選ぶんじゃッ!」
お祭り騒ぎだった。……無論、悪い意味で。
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