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最終章 : 5

 激動の一日も、ほとんど終盤。 「──疲れたぁ~っ!」  カナタは自室のベッドで横になりながら、珍しく大きな声で弱音を吐いていた。  結局、今日はお客様から祝福されてばかり。周りから『嫌な男だ』と思われる覚悟で【ツカサはオレのもの】とアピールをしていたのに、思っていたような反応が返ってこなかった。それもある意味、疲弊を増幅させていた気がする。  夕食を終えてから就寝の準備も一通り済ませたカナタがこうして、ベッドに突っ伏していると……。 「──今日は人気者だったね、カナちゃんっ」 「──わぁっ! ビッ、ビックリしたっ!」  音もなく、旦那様が侵入していた。  いつの間にかやって来ていたツカサはベッドに座り、うつ伏せで倒れていたカナタの頭を撫で始める。 「凄かったねぇ、今日。カナちゃん、いろんな人にベタベタ触られちゃってさぁ?」 「あのっ、ツカサ君?」 「誰が触ろうとカナちゃんは既に俺のものだよ? だけど、逆に面白くないよね? 人のものなのに無断でベタベタ触ってさ、非常識だよね? カナちゃんは必死に指輪を見せていたのに、どうして皆、その意味が分からないんだろうね?」 「ヤッパリ、凄く怒ってる?」  頭を撫でる手つきが、徐々に雑なものへと変わっていく。  口角は上がっているというのに、瞳は一切笑っていない。  この二点から分かることは、ひとつ。……ツカサ、大激怒。 「分かってはいるつもりだよ? カナちゃんが俺を独占しようと頑張っていたってことは、さ? だけど、あんな光景を見せられたら気が気じゃないよね。何度マスターに『うちの店で【ウミガメのスープ】をメニューに追加してみない?』って提案しようとしたことか……」 「ウミガメの、スープ? 今日の出来事とウミガメに、なんの接点が……?」 「おっと、今のは失言。……なんでもないよっ」  よくは分からないが、なにやら不穏なことを考えていたらしい。カナタは体を起こし、座っているツカサと対等になろうとする。 「だけどオレは、言いたいことをちゃんと言えたよ。確かに予想外の反応で困っちゃったけど、でも、駄目なことばかりじゃなかったかな。……なんて。そんな回答じゃ、ツカサ君は不服?」 「不服だよ?」 「だよね」  拗ねているツカサに、カナタはもたれかかった。 「オレ、ずっと『ツカサ君と結婚したんだな』って実感がなかったんだ。オレはいつも通りだし、ツカサ君もいつも通り。マスターさんもウメさんもリン君もいつも通りで、きっとオレの両親もツカサ君のお母さんもいつも通り。だから、このまま実感が湧かないのかなぁって思ってた」 「……うん」 「だけど、今は違うよ。今はね、実感しかない。お客さんが、オレを見て変化を口にしてくれたから。……だから、実感したよ」  ニコリと、カナタは笑みを浮かべる。 「──オレ、ツカサ君のお嫁さんになれたよ。だから今、凄く幸せっ」  ご機嫌取りでも、お世辞でもなく。心の底から『幸福です!』と言いたげな、カナタの笑み。 「……なんだか、ズルいなぁ。最近、カナちゃんに絆されてばかりな気がするよ」  なによりも大切で愛しいカナタのそんな笑顔を見て、それでも『だけど』と言うほど。ツカサは、子供ではなかったらしい。

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