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オマケ①【そんなにアツくさせないで】 1

 ※二人の関係性は四章後くらいです。  ※ですが、そこまで読んでいなくても読める内容になっております。  仕事終わりの、ある日。 「──あっついねぇ……っ!」  カナタと共にダイニングへとやって来たツカサが、そう嘆いた。  温暖化だなんだと世間では騒がれているが、これは納得せざるを得ない気温だ。ツカサのように大きな独り言を言うほどではないにしても、カナタはカナタで汗をかいていた。 「今日の仕事はいつもとは違う意味合いで大変でしたね。キッチン、お疲れ様でした」 「ありがとう、カナちゃん。……はぁっ、カナちゃんは暑い日でも俺の癒しだねぇ」 「そう、でしょうか? もしもそうなれているのなら、嬉しいです」 「暑さで火照った顔も可愛いけど、照れて赤くなっているのも可愛いね。ヤッパリ、俺の恋人は最高だよ」 「……ありがとう、ございます……っ」  思わず頬を赤らめつつ、カナタはダイニングにある冷蔵庫へ近寄る。 「なにか飲みますか?」 「カナちゃんはなに飲むの?」 「オレは、どうしましょう。……晩ご飯前ですし、麦茶にします」 「じゃあ、俺もそれ。カナちゃんの口移しがいいなぁ。……って、あらら。コップを用意されちゃった。そんなクールなところも可愛いね」  暑くても、ツカサは平常運転のようだ。  コップと麦茶を用意したカナタに礼を言った後、ツカサはカナタの分も麦茶をコップに注ぐ。  冷えた麦茶を堪能しつつ、ツカサはテーブルの上で頬杖をついた。 「なんだか元気がないね? もしかして、カナちゃんは季節だと夏が嫌いなのかな?」 「そう、ですね。冬も冬で寒いから得意じゃないですけど、暑いのも得意じゃないので、好きではないかもしれません」 「そうなんだ? カナちゃんのことがまたひとつ知れて、俺は嬉しいな」  穏やかな時間にカナタは居心地の良さを感じつつ、会話に応じる。 「ツカサさんはどうですか? 夏、好きですか?」 「うぅん、そうだねぇ? 薄着のカナちゃんもいいけど、モコモコに着込んだカナちゃんも可愛いだろうからなぁ。なかなか、甲乙つけがたいね。自分で言うのもなんだけど、結構いい質問しちゃったなぁ」 「話の主旨が違うような気もしますが……」 「俺にとっては本題だよ? 凄く大事」  やはり、暑くてもツカサのトーク力は健在だ。麦茶の注がれたコップを持ちながら、カナタはジッとツカサを見つめる。  ダイニングに入った途端に『暑い』と言っていた通り、確かにツカサは汗をかいていた。ほんのりとではあるが、確かにだ。  普段はニコニコと笑みを浮かべてそれ以上はあまり表情を変えないツカサゆえに、そうした【人間らしい】態度や変化を見つけられて、カナタはそこはかとなく嬉しく思ってしまう。 「それにしても、今日は本当に暑いですね。マスターも厨房で溶けかけていましたし、明日からもこうなのかと思うと少し憂鬱ですね」 「マスターがどうだったかは覚えていないけど、こんな気温が続くのかと思うと確かに気が滅入るよねぇ。カナちゃんにくっついたらイヤがられそうだもん」 「あははっ。暑いですから、少し困っちゃいますね」 「だよねぇ。俺の体温で暑がるカナちゃんもなかなか趣深いけど、かと言って俺はカナちゃんを困らせたいワケじゃないからなぁ。難しい議題だよ」 「そんなに複雑な話だったんですね、今のって……」  会話が弾むと、麦茶を飲む手も進んでしまう。  カナタたちは二杯目の麦茶をコップに注ぎつつ、談笑を続けた。

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