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プロローグ 龍の褥(しとね)

 西新宿にあるホテルの一室から、若い男の熱い喘ぎ声が漏れた。 若い男の名は立川舜(たちかわしゅん)、歳の頃は二十五になるくらいだろう。 「ねえお願い、乳首をそっと噛んで」  男に組み敷かれた舜は男にねだった。男は表情一つ変えず、舜の乳首に口を這わせた。そしてぷっくりと膨らみを増す乳首に歯を当てた。 「ああっ、そこ! いい!もっと!」  舜は男の頭に両手を回し、背中を仰け反らせる。男は舜の腰をぐっと引き寄せ、さらに強く自分の腰を押し付ける。 「ああっ、いい! もっと深く!」  舜は僅かに自分の腰を左右に振り、自分の気持ちのいい場所に男の硬い肉竿を当てようとする。それを察した男は舜の後孔を上下にずらしながら突いていく。 「あ……あっ、そこ! ぐうっ、またイクッ!」  舜は大きく腰を浮かせ、熱い嗚咽を漏らす。 だが男の腰の動きは容赦なく、舜の腹の中を更に深く抉るように突いていく。 「す……すごい、イイ! 龍さん、凄い!」 「まだだ」  舜はブルっと胴震いをした。  男は舜の腕を掴み、身体を起こした。自分の身体を舜の下に落ち着けると、今度は下から舜の後孔を突き上げる。舜の口から漏れる声が裏返る。 「ああだめ! そこをそんなに突かれたらまた……あっ、イクッ!」  舜は射精感だけを強烈に感じた。おそらくはドライな絶頂が襲ってきたのだ。  男は膝を立て、更に強く舜の後孔を突き上げながら、前後に捻る。 「ああっ、もうだめ、もう俺、おかしくなっちゃう!」  舜はだらしなく口を開いたまま、声にならない喘ぎを漏らし続ける。激しい上下の律動に、舜は大粒の汗を流した。後孔への刺激ばかりではなく、舜はS状結腸の入り口を激しく出入りする肉竿を感じながら、呼吸を忘れそうになるほど、淫靡な喘ぎを漏らし続けた。 「さあ、そろそろ仕上げだ」  そう口にすると、男は再び舜を自分の下に敷き、舜の両脚を抱え上げた。 「ああっ、気持ちいい、ああっ!」  泣き声に近い声を上げながら、舜の両手が男の首に回される。男は体重をかけるように肉竿を深く浅く抜き挿しする。 「ぐうっ、凄い、凄い! またイクッ!」  男の動きが速さを増し、その精悍な口元から低く呻くような声が漏れる。 「調べはついたか?」 「秀蜂(しゅうほう)は明後日開かれる六本木ヒルズのエルタワーに現れる。目的はわからない。ただ……」  舜はそこで言い澱んだ。 「龍さん、そこへ行くの?」 「ああ。情報が本当ならそういう事になるな」  舜は気怠さの残る身体を起こし、男の胸に頬を寄せた。 「龍さんはただの客だ。分かってる。組織から睨まれていた俺を救ってくれたのは龍さんだ。だから姉さんの情報だって龍さんになら流す。でも今回だけは行かないで! もし龍さんにもしもの事があったら俺は……」  龍と呼ばれた男はタバコに火を点け、ゆっくりと煙を吸い込んだ。 「組織の目的を知っているのか?」  舜の綺麗な瞳が右上にすっと流れた。おそらく何かを思い出しているのだろうと男は思った。 「誘拐……」  男の瞳がギラリと光ったように感じて、舜は一瞬たじろいだ。 「でもそれ以上は知らない。本当だ」  男は舜が嘘をついていると感じた。だがそれを責める気にはなれなかった。 「お前はしばらく何処かに身を隠していろ。そこに三十万ある」 「でも、店には何て言うの?」  男はゆっくりと煙を吐き出すと、灰皿にタバコを押し付けた。 「マスターなら気にするな。一週間ほど舜を買い受けてある。お前はしばらく店にも顔を出すな」  舜はベッドから抜け出て、裸のまま男の視界の中に立った。身長は百八十に少し足りないくらいか。長い手足、しなやかな肢体をしている。線の細い顔の輪郭は、そのまま女に見えないこともない。 「龍さん、俺は綺麗? それとも汚れている?」  男はゆっくりと上半身を起こした。 「お前は綺麗だ。だが薬はやめておけ」  舜はピクリと小さく震え、口元を強張らせた。 「足の甲に注射痕があった」 「気付いていたんだ……。龍さんには嘘はつけないな」  男はフッと笑みを浮かべた。だがその目元は決して笑ってはいなかった。むしろその瞳には哀しみが滲み出ていた。 「龍さん、お願い。僕と一緒に香港へ行って? 香港なら二人で静かに暮らせる。もうこんな危ない仕事をしなくてもいいんだ。龍さんは言葉も話せる。そうだ、二人で日本語学校を開こう! きっとうまく行くよ」  舜は涙目になりながら訴えた。 「前にも言ったはずだ。俺は誰を所有するつもりも、所有されるつもりもない。蒸し返すのはやめろ」  舜は反論することを諦めたのか、男のベッドに戻った。シーツを剥がし、男の身体に跨った。 「ならもう一度抱いて。みんな忘れてしまうくらいに……」  そして男の唇に自分の唇を押し付けた。  男は舜の頭に手を回し、身体を入れ替えると、舜の乳首を思い切り吸った。 「ああっ、龍さん!」    部屋にすすり泣くような舜の喘ぎ声が響き渡った。

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