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14.アイスコーヒー事件 続続

「SWEETって😂なにそれ😂当たり前でしょ甘くしたんだから!カイセー天然なの?😂😂」 「え!?えっと…」 「…なるほどね〜(笑)よく覚えておくよ(笑)」 「天然じゃないっす!!!!(泣)」 ほんとに違う!ちょっとテンパっておかしなこと言っちゃっただけで…!!! 慌てて弁明しようとするおれに、「……ねえ、もしかしてさ、」と急に先輩は声をひそめておれの耳元に唇を寄せてきて、 「(カイセーが甘党なこと、お店のみんなにはナイショにしておいたほうがいい?)」と耳打ちしてきた。 ッッッ〜〜〜!!!急なASMRはダメだろ……!!!! 耳がゾクゾクしてくすぐったくて、感情が追いつかない。こんなに先輩の顔が大接近してきたことなんてなかったから股間の辺りがムズ痒くなってしまい、ついでにふわっと香ってきた甘いピーチの香り(?)が鼻から脳天を突き抜ける。 「な、ナイショに……?」 「(ナイショにする?)」 なおも先輩はおれの耳元でコソコソ話をして、ん?どうする?と小首を傾けておれの目をじっと覗き込んでる。小鹿ちゃんみたいなうるうるしたつぶらな瞳…!!!💘 『甘党=男として恥ずかしい』みたいな図式を描いて ひた隠しにしてきたおれとしては確かに他のスタッフには内緒にしてくれたほうがメンツを保てるから助かるんだけど、それよりこんなに大接近されると…!!!!ドデカ感情が口から飛び出しそうだし、なにより下半身(ドコとは言わない)が反応して固くなってきちゃっててマジでヤバ…!?!? 「な、ナイショにしといてください…!」 「んふふふ、どうしよっかな〜(笑)」 「ッッ〜……!お願いします…!!!」 ほとんど半泣きだ。ちょっと背伸びしておれの肩に手を乗せていた先輩は「ふふっわかった」とようやく解放してくれて、ついでにトドメとばかりにおれの耳に息をフゥッと吹きかけてきて、おれはイタズラされまくって真っ赤になった耳を押さえて飛び上がって逃げた。 な、な、なに、なんなんだよ…!?!?おれの最後の"お願いします"はほとんど『あなたの言うとおりにするのでもう解放してくださいお願いします』のニュアンスになってたんだけど…!?先輩おれのことからかってるんですか…!?!? 真っ赤になった耳を押さえてひーひー言ってるおれに「あは!フゥッてされてびっくりした?」とニッコニコ。 「もうっ!!やめてくださいよ!!!!(泣)」 「あはは!ごめんごめん!!」 大げさに怒ってる演技するおれからミズキ先輩はわーきゃー言って逃げて。 あれ?って思った。 こうやってふざけてじゃれ合うのって、おれが前にナリタ店長と先輩の間で見かけて羨ましいって思ってたやつじゃんって。 気付いたらなんだかまた心がぽかぽかしてくすぐったくなって「怒った?怒ったの?」となおもイタズラっぽく笑ってくる先輩がすげーー可愛く思えちゃって。 「まぁわかったよ、新しいコーヒー豆は甘党の人でもおいしく飲めるってことで店長に報告しておくから!…あ!ってことはもしかして生クリームとかキャラメル掛けてもイケそう?」 「あ、はい、大丈夫だと思います」 おれの頭の中にポンっと生クリームとキャラメルソースの絞り機を持ったパティシエ風ミズキ先輩が現れて「おいしく食べてね…♡」なんて甘〜い顔で言ってる。…ぜひともおいしく頂きたいです…!! 「そっか〜……うん分かった、そっち方面の商品化も店長と検討してみるね」 きゃっきゃと無邪気に笑ってた顔からまた急に真面目な仕事モードに入った先輩は「…あのさ、」となにかを切り出そうとしてて、おれはまだこれ以上何か…!?!?ってちょっと身構えてしまった。 「あのさ、カイセーってさ、すごく頑張り屋さんなんだけどたまに無理して周りに合わせてるのかな〜って思うときがあってさ…あ、違ってたらごめんね💦でも例えばヒマな時間にみんなで雑談してる時とかさ、もしかしてムリして笑ってるんじゃないかな〜って…」 その通りだった。オタクから一歩踏み出したばかりの超絶コミュ障のおれは、カフェバイトを始めていわゆる『一般層』の人たちと関わりを持つようになって、すこしムリしてるところがあった。おれが今まで関わってきたようなオタクの友達とならアニメとか声優とかゲームのレアアイテムの取り方とか、そういう『自分の興味関心に直接関わっていること』だけで会話が成り立って、それでオッケーだったのに、一般の人とはそれだけじゃだめなんだ。 例えば店長とだったら、週末の天気は晴れだからアイスコーヒーの注文が増えるからコーヒー豆を多めに用意しておくとか、別店舗のシフトがうまく回らないから困ってるって話とか。 バイトかけもちしてるA先輩とだったら、あっちの仕事とか人間関係の愚痴を聞いたりとか。 恋人持ちのB先輩とだったら、恋人への不満とか、メイク道具でバイト代を散財したから今月は金欠だ〜とか。 向こうの事情を知って、興味を持って、あいづち打って、解決策を一緒に考えて…とかしてると、ほんとに仕事以外のことで精神が疲弊していく。 おれが密かに悩んでいたことを、このひと気付いてたんだって。 なにも言えなくなってしまったおれを見て、ミズキ先輩もアタリだと思ったんだろう、優しい表情になって「まぁあんまりムリに合わせることないよ!みんなは好き勝手に好きなこと喋りたいだけだからさ!僕じゃ頼りにならないかもしれないけど、なにかあったらなんでも相談して」と明るく励ましてくれる。 「………ありがとうございます」 「ん☺️カイセーが頑張ってることはよく分かってるから!だから、僕の前でだけはムリしないでね」 おれの胸の中心を人差し指でツンとして、にへへ、と照れくさそうに笑う先輩の姿に、おれの胸はきゅーーーーんと天井高く鳴った。 「あ、やば!カイセー帰るところだったのにすっかり話長引いて引き止めちゃったね。次のシフトはいつだっけ?」 「…◯曜日です」 …だめ、まだ動悸が……… 「そしたらその時までにコーヒーのアレンジ考えておくから、また試飲よろしくね」 「はい!」 「じゃ〜また◯曜日にね!お疲れ様〜」 「お疲れっした…!」 照れて真っ赤になったおれは顔を隠すようにウィンドブレーカーのファスナーを限界まで引き上げて、そそくさと裏口から店を出た。 ミズキ先輩は最後まで手を振って見送ってくれていた。

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