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13.アイスコーヒー事件 続
「アイスもホットもできるけどどっちがいい?」
「えーと、アイスコーヒーでお願いします!!」
「オッケーちょっと待っててねすぐ作ってくるから!」
えーーーんラッキーすぎる😭✨
そわそわしながらバックヤードで待ってたら、「お待たせ〜」と先輩がテイクアウト用のカップホルダーでアイスコーヒーを持ってきてくれた。
「ありがとうございます!いただきます…!」
「んふふ、どーぞ召しあがれ!☺️」
ストローを咥えようとした瞬間、天使先輩の視線をめちゃくちゃに意識してしまう。
あの、すいませんそんなに見つめないで頂けませんか…?
いやわかってるんです、新しいコーヒー豆の試飲の反応を待ってるんだってことは重々分かってるんですけど、、、、
なんか、好きな人の見てる目の前で食べたり飲んだりするのってすげえ恥ずかしいっていうか、緊張するっていうか……
それに実はおれ、コーヒー苦手だったりして……
せっかく先輩がコーヒーを試飲させてくれるっていうのを断ってイヤな思いさせちゃうのも嫌だったし、すこしでも話をする時間や接点を増やしたかったってのもあるし、『一人前の男はカフェでブラックコーヒーを飲む』みたいなアレがあるから最近は頑張ってコーヒー飲んでるんだけど…
本当はミルクと砂糖をたっぷり入れた甘ったるいカフェオレじゃないと飲めないんです………
……なんてカッコ悪いことを先輩の前で言えるはずもなく、おれはせめてマズそうな顔だけはしないように眉をきゅっとあげてケツの穴締めて、思いきりストローからアイスコーヒーを啜った。
って、あれ?…甘い………?
「先輩、もしかして…」
「ミルクとシロップ入れてみたんだけど甘さ足りた?もうすこし足そうか?」
「え!?いや、これくらいで十分なんですけど………おれ、先輩にブラック飲めないって言ったことありましたっけ…?」
バイトの休憩中に飲むドリンクはメロンソーダとかコーラとか、ずっとそんなんで誤魔化してきたはずだったのに、なんで先輩がおれの好み知ってるの!?!?
「え、だって初めてうちのカフェ来たときもアイスコーヒー頼んでて、ミルクとシロップたくさん入れてたでしょ?」
「!?!?おれが初めて来た時のこと覚えてるんですか!?」
うそ!?そんなこと今まで一回も教えてくれなかったじゃん!?!?
いやでも、なんでもできるスーパーバイトリーダー・ミズキ先輩ならひとりひとりの客の顔と好みを覚えててもおかしくはない…!?!?
まさかおれのこと『だけ』特別に覚えてるハズないですよねって、もしそうだったらおれ盛大に"勘違い"しちゃいますけどいいんですかって、そんな確認を込めて噛み付く勢いで問いただすと、
急に先輩がほっぺを赤らめて、
「お、覚えてるよ、かっこいい男の子が来たな〜って思ったんだもん…」
…………
………………!?!?
エッッッッ、ちょ、、、待っ………、、、、
えっっっっ?????
確かにあの日、おれはコンビニで手当たり次第にファッション雑誌を買ってファッションを勉強し、初めて入った店の美容師さんに「これにしてください」と表紙の男性モデルを指差して髪型をなんとかしてもらい、その美容師さんに言われるまま3000円くらいするシャンプーとコンディショナーを呼び含め2本ずつ購入し、ぴかぴかの状態になって生まれ変わった気がしたおれはそのまま薬局に行ってヘアワックスとかいう謎アイテムをカゴにぶちこみ、雑誌の「男の身だしなみ」コーナーに習って一番メインっぽいコーナーに置いてあったメンズスキンローションとメンズビオレのスクラブクレンジング洗顔を買って帰宅して、
学校へ着ていく服がないって気付いて絶望して、
それに腹も空いてて、
生まれて初めて「カフェ」とかいうオシャレ空間に足を踏み入れたおれを「いらっしゃいませ」と柔らかい声で迎えてくれたのがミズキ先輩でしたけど…!?!?!?
トマトのパスタ頼んで、一人前の男ぶってブラックのアイスコーヒー頼んでみたけど苦すぎて結局シロップとミルクのポーション5個ずつ入れて苦い苦いリアタイツイートしながら飲み干しましたけど!?!?!?
え!?うそ、待って待って!?
おれがあなたに一目惚れしたあの日あの時あの場所であなたもおれのことを見てて、今日というこの日までそっと胸のなかに思い出をしまっててくれたんですか!?!?
ごめんなさい!?胸がギュンギュンして苦しいですう!?!?
しかもなに、おれのことかっこいいって言った!?
大事なことだから2回言っちゃうけど、いまおれのことかっこいいって言ってくれちゃいました!?!?!?
「か、か、か、か、か…?」
真偽を確かめようとして『かっこいいって言いましたか?』の頭文字『か』しか言えなくなったポンコツおれロボットに、顔を赤くした天使先輩は
「もう…!かっこいいって言ったんじゃん!2回言わせんなよバカ!」
って、ぷんぷんして、、、、、
肩をぽこんって殴ってきて、、、、、
グーで殴られたのに全然痛くないおれの肩と、ギュギュギュギューーーーン!!!!とものすごい力で撃ち抜かれたおれの心臓…💘
ジーザス…MY ANGEL...
「味の感想はどう?」
とちょっとまだ恥じらってむくれながら訊いてくるミズキ先輩に、おれは「…SWEETです……」と答えたのでした。
SWEETの主な意味:
1 〈飲食物が〉甘い
2 〈音・声が〉耳に快い
3 〈光景が〉甘美な
4 〈人・動物が〉愛らしい
5 〈事が〉快くうれしい
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