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18.騒音犯はバイク野郎!?先輩と同じ大学だった!?件

朝のゴミ出しに遅刻した。 「うえっ!?9時!?」 今日は木曜日、プラスチックごみの日。プラごみ回収は木曜日だけと決まっているので、毎日インスタントラーメンとコンビニ食を食べてるせいですぐパンパンになるゴミ袋を今日出さないとすぐにヤバいことになる。寝起きでかったるいけど仕方がない。 ゴミ箱から袋を引っ張り出し、リビングに散らかしていたプラスチックごみを急いで袋につっこんで、サンダル引っかけて玄関を飛び出す。 ゴミ収集車がまだ回収に来ていないことを祈りながら、かん、かん、かん、とアルミ階段を降れば、あった。一階部分のごみ集積所にぽつぽつと置かれたゴミ袋。よかった、まだ回収来てなかったみたい。焦った〜…! 上がった息を整えながら持ってきたそれをカラスよけネットの内側にぶち込んで、ん?と思った。 こんなバイクあったかな。 駐輪場と駐車場の間の空きスペースにドドンと停められたゴツい車体。 黒の車体にシルバーのカスタムペイントを施したフルカウルスタイル(空気抵抗を下げるための外装パーツが取り付けられているバイク。エンジン起動部などが剥き出しでない状態)のスズキGSX-S1000GT。GT(グランドツアラー)の名の通り長距離走行でこそ本領を発揮する馬力のあるバイクだ。 重くてでかいから街中ではあまり小回りも効かないから通学とか出退勤とかそういう普段使いには向かないけど、こいつでちょいと遠くまでツーリング(遠征・旅行)するのはバツグンに気持ちいいだろう。 このアパートの住人の所持物ではないな、とは直感で思った。 築年数の経った安アパートの賃貸料と車体価格だけでも100万以上するバイクは釣り合わないし、雨跳ねで汚れやすい砂利駐車場なのにぴかぴかの車体にはバイクカバーも掛けてないし、そもそも契約駐車してない。 だからたぶん、ここに住んでる住人のところに友達が遊びにきたとか、そんなかんじだろう。そういえば昨晩深夜、バイクのエンジン音がしてたっけ。ということは昨晩深夜、おれの隣の部屋でギシアン言わせてたのはこいつか……? おれの安眠を邪魔しやがってと若干ムカつきつつ、昨晩もこれにそっくりなバイク見かけたし、街中でデカいの乗るひと結構いるんだなぁ、持ち主は最悪だけどやっぱデカいとかっこいいなぁ!カスタムペイントまじでイケてんな〜〜!って、おれはのんきに朝日を反射してぴかぴか光るボディの周りをうろうろしてたんだ。 そしたら上からガチャンッとドアを開ける音がした。 誰か二階の住人が出てきたらしいとおれは悟って、駐輪・駐車場を離れてサッと物陰に隠れた。 ちなみにアパートの部屋割りは1階4部屋、2階4部屋。階段を中心に左右に分断してるやつ。だから2階の左側でドア開ける音がしたってことは、必然的におれの隣の部屋から出てきたってことになる。 バイクの持ち主で週1.2回ギシアンかます変態野郎のカオ見てやろうって、息をひそめて様子を伺うおれ。 かん、かん、かん、とアパート2階廊下から階段を降りてくる音。 げげ、と思った。 あいつって、昨晩ミズキ先輩をかっ攫ってった奴じゃね……? 黒のジャケットウェアにジーンズ。昨晩は暗かったからよく分からなかったがこうして明るい所で見てみると、シンプルなライダースタイルなのにめちゃスタイルが良いからオシャレにからきし疎いおれから見てもかなりキマってた。距離があったから顔まではよく見えなかったけど、高身長・高スペック・高収入なのは明らかだ。 ってことはさ…昨晩はミズキ先輩を家に送った帰りにうちのアパートに来て夜中じゅうヤッてたわけ?しかも朝帰りかよ。まじでいけ好かねえな。そういえば昨晩と同じ服装っぽいし……くそ!この朝帰り野郎…!! ゴツいバイクをふかして颯爽と朝日の元へ走り出すそいつを、おれは忌々しい思いで見送った。 ・ ・ ・ 大学構内、大講堂。 前方にある教壇へ向かってすり鉢状に固定式横長デスクとチェアが並んでいる大講堂の一角で、おれは眠い目を擦りながら講義を受けていた。この講義を担当している教授は授業開始直後にホワイトボードに要点をすべてまとめて書き、そのあとで内容を説明してくれるタイプの講義の仕方をするので、最初にルーズリーフを書いてしまえば「渋谷・二子玉川の都市開発」なんて子守り唄みたいなもん。 思い出すのは昨晩のミズキ先輩のえっっっちなお尻と、朝見かけたバイク野郎のゴツくてデカいツアラーのこと。 あーーー……………絶対ち◯こもデカいんだろうな…………… 『バイクの大きさと男のアレのデカさは比例する』ってのは都市伝説だけどさ、あんなに身長あるんだからふつーーにち◯こデカいだろ………あーーくそ………恋人もいて……週1.2回セックスできて………くそ…………負け……… ・ ・ ・ 「カイセー氏〜〜〜!」 「…んぁ…?」 隣で一緒に受講していた友人Aがゆさゆさと肩を揺すってくるのでようやく目が覚めた。 広い講堂で、講義から解放された生徒たちが思い思いに雑談しながら移動を始めていて、それでやっとおれは講義が終わったのだと悟った。 眠い目を擦りながらデスクから身体を起こす。 固定式のテーブルと引き出し式チェアは硬すぎて寝心地は最悪。ばっちり身体がバキバキになっていた。デスクに数滴垂れていたよだれはそっと袖で拭いておいた。 「カイセー氏!寝るナッシーww昨日寝てないディアルガ?」 「おまえだってほとんど寝てないじゃん、昨日夜中2時までおれと対戦してたんだし」 「もれは午前中講義なかったカラカラたっぷり二度寝したナッシーw」 「は、裏切り…」 「wwww」 こいつは大学で知り合ったオタ友で、ポケモンの名前を語尾に添えてくるという特殊な喋り方をするけれどもそれさえ慣れれば案外気のいいやつだ。すぐネタ切れするらしくナッシーの多用率の高さがちょっと気になるけどそんな些細なことを指摘するほどおれはヤボじゃない。 あ〜…それにしてもマジでねむい…… 昨晩はギシアン事件の後、LINEで呼び出したこいつとオンラインゲームをしてたんだ。2時に友人Aが落ちて、おれも寝ようかなって思ったんだけど隣室のやつらが永遠にイチャこいてっから変に張り合っちゃって、気付いたら朝の5時。隣の部屋はいつのまにか静かになってた。 そっから二度寝して…9時に起きてゴミ出しして…バイク野郎に遭遇して…… あ〜………ねむ…ヤバ……今日このあとバイトなのに…果たしてこんなにへろへろの状態でこっから5時間も働けるのか、おれ? しかもせっかく板書したはずのルーズリーフは眠気に負けて筆跡がみみずみたいになってて、一文字だって読めやしなかった。踏んだり蹴ったりだ。 「カイセー氏、これ見てくれナッシー!!」 ハイテンションな友人Aの声。頭にキンキン響く高周波にうんざりしつつ差し出されたスマホの画面を見ると、アイドルっぽいフリフリのピンクミニスカ衣装を着た若いねーちゃんと友人Aが並んでピースした写真が映っていた。 「なにこれ?なんかのオフイベント?」 「そう!!マジヤバかったんだよ〜〜生の◯◯ちゃん!!!もれ初めて◯◯ちゃんの握手会行ったんだけど本物の◯◯ちゃんほんとにかわいくてかわいくて、かわいくて、おれみたいなヲタにもずっと神対応でおれたちの女神…歌もサイコーで…かわいくて………」 どうやらおれの知らないアイドルだか声優だかの握手会イベントに参加していたらしく、早口でもにょもにょ言いながら画面最速スクロールで連射した写真を見せてくる。 「見てくれこれ!◯◯ちゃんのまばたきの瞬間も捉えたおれの神スマホ…!」 「あ〜…ほんとだ〜…まばたきしてる…」 「尊い!!!!非常に尊い!!!!ネ申ッ!!!!!!」 おれには化粧ノリの悪いちょいブスが半目で事故ってる写真にしか見えないけど……… 興奮しすぎて普通の喋り方になっている友人の姿と、普段から滑舌が悪いオタクが早口になったことで周囲にまき散らされるツバ。それらに若干ヒきながら話に付き合って、そこでおれは"あること"に気付いてしまった。 こいつ、もしかして童貞じゃん。 おれの隣でドゥフドゥフ言ってるこのザ・キモオタは、こんなレベルの女をかわいいとか尊いとか女神とか言っちゃうようなド底辺童貞なんだ。 おれの内側からむくむくと湧いてくる優越感。 だっておれは、 そう。 この前チェリーを卒業した漢-おとこ-だぜ… ふっ……… 悪りぃなAよ…… バイク野郎には『現時点では』負けちゃいるが、おれはまだまた未来も伸び代もある大学一年生。『これからの男』なんだせ。 おまえより一足お先にNEXT STAGE-新天地-を見ちまったおれは、これからガンガン進撃していくんだぜ……!!!!! 自分より下の人間を見つけたことでようやく自分を鼓舞できたおれがそっからスカイツリー並の天狗鼻になり、「あーうんなるほどねー」とか「そいつぁすげえや」とテキトーすぎる相槌をかましながらルーズリーフやペンを鞄に突っ込んでいると、大講堂のどこかから聞き覚えのある笑い声が… 「あはは!ウケる〜!」 はっ!?あの声はまさか…!? おれがあの声のトーンを聞き逃すわけがない。 目を凝らしてその方向を見てみると、そこにはなんとあのミズキ先輩が!! わわ!同じ学校だったんだ!?!? 『バイト先の先輩』というステータスに『同じ大学の先輩』というバフが掛かり、しかもこんな所で会えるなんて夢にも思ってなかったから、こんな遠目からでもなんかもういつもよりキラキラ2倍増し! ミズキパワーで急速にHPを回復させたおれはすぐさま駆け出して、講堂の外へ出ていく先輩を追いかけた。後ろで友人Aが何か言っているのが聞こえたが、ごめん、おまえのことは後回しだ、許せ友人! 「ミズキ先輩!」 うしろから声を掛けた瞬間、あれ、やっちゃったかなと思った。だってそのとき先輩は、連れの男子学生に腰を抱かれて歩いていたから。

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