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すかさず、手のひらに力をこめる。少年の表情がほんの少しだけ穏やかなものになった。だがこの状況だ、どうしても恐怖と不安が勝るのだ。ルトの癒しを使っても、完全には怯えを取り除けなかったらしい。それでも先ほどよりは落ちついたエミルに、ルトは極力優しい声を出した。
「エミル、怖いなら、こうして手をつないでおこう。俺も、心細いんだよ。すごく怖いし」
「ほんとう? 僕の隣にいてくれるの? ずっと、手をつないでいてくれる?」
「うん。約束」
エミルが涙にあふれた目を向けてくる。頼りない手を、ルトはぎゅっと握った。
シーデリウムで、これからどんな受難があるのか。どんな状況を突きつけられるか。いったい――どこで、どうやって、死んでゆくのか。
ルトの手が微かに震える。ルトの癒しの手は、ルト以外のすべての人に安らぎと心地よさ、そして幸福感を与えられる。だが、皮肉にもルト自身にはひとつの効果も与えてはくれなかった。
エミルの震える手を握り、人の温もりを感じ、安堵を覚えたのは自分のほうかもしれないと、ルトは思った。
野営を挟みながら数日かけて、ようやくシーデリウムに入ったらしい。
馬車から見える景色では、見たこともない色とりどりの風景が多くなる。何より小さな人間ではない、尻尾や耳がはえた大柄な獣人が颯爽と歩いていた。
初めて見る建物や植物はルトの目を楽しませたが、ときおり獣人が、ヌプンタ国の馬車を見て、嘲る視線を向けてくるのは嫌だった。
そうしていると今度は、遠目でもわかるほど大きな城が見えてくる。もしかしたら大草原かと錯覚するくらい膨大だ。広大な敷地内を鉄柵がずらりと囲み、いくつもの巨大な建物が間隔をあけてそびえる。まるで小さな国だ。
一面は芝生だらけで、後ろには広大な山もある。奥にある城のシルエットがなければ牧場に送られたのかと勘違いするほどだ。ルトは目を見張った。
「お城……、シーデリウム城?」
ルトの予想は当たった。馬車から降ろされ、次に連れられたのは、シーデリウム王宮の――後宮だった。
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