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たちまち緊張が走る。嫌な予感しかない。たぶん、王宮に仕える獣人なのだろう。ヌプンタ国の官僚が、武装した複数の獣人にルトたちを引き渡す。少年たちを乗せた馬車は、役目を負えたと言わんばかりに去っていった。
視界の端でだんだん小さくなる馬車を、ルトは最後まで瞳に焼きつけていた。もう見ることは叶わない、故郷の造り物を、記憶の奥に刻みつけて。
「ぼぅっとするな。お前らはこっちだ。数が多いからな、宮内に全員入るまでは、ここで身体からだを拘束する」
十人の役人らしき獣人たちが、後宮の入り口でルトたちを出迎えた。入り口といっても後宮の門扉だ。後宮内に入るまでには、敷地内にある野道といえる長い道のりや、美しく完成した池掘りを通らなければならないという。
ここで逃げないよう暴れないよう、少年たちの細い手首は縄で繋がれた。十人ずつ一列に連なって案内され、ようやく後宮のなかへ足を踏み入れる。まるで罪人だ。
白を基調とする宮の美しい大広間で、ルトたちは身を寄せ合う。集められる人間は、およそ五十人と聞いていた。だがそれだけの数がひとところに集まっても、スペースは十分にある。
ルトは横並びにされた二列目にいた。右隣りはエミルだ。ルトも、エミルも、きっと他の子どもたちも。不安と恐怖で身体を竦ませている。成熟しきっていない小さな身が、綱渡りのようにかたかたと震えていた。
整列されたルトたちの前に立つのは、わずか十人の獣人だ。指折りに数えられるほど少なくても、その存在が大いに勝る。顔立ちは人間と同じだが、鼻筋が長く彫りも深い。いやに整った造形のせいでどこか冷たさを感じた。
連れられた小さな子どもを見る金や銀、グレイの瞳は鋭く光り、耳を澄ませて牙を隠し、無言の威圧を放っている。大きな獣耳と、くねくね動く尻尾。軍服らしいきっちりした服を着こんでいても容易にわかる、逞しい胸板。手の甲には動物の体毛が濃くある獣人もいた。爪はとがっていないが少し細長い。
獣人と目を合わさないよう縮こまって俯くルトたちを、ざっと眺めたひとりの獣人が告げた。三白眼でいかつい顔つきの彼は、虎の獣人のようだ。堂々とする体躯の後ろで、残りの獣人たちを従えている。広い空間に、響き渡るほど大きな声だった。
「服を脱げ。たった今から、お前らはこの後宮で暮らせ」
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