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 ルトの呟きに、目の前の魔術師が口角をいやらしく歪めた。 「そうだ。このツエルディング後宮は、いわば獣人の繁殖用に建てられたもの。皇帝陛下が訪れる由緒正しい後宮には、宮廷に仕える獣人でもそうそう近寄れぬ。だがこの後宮だけは別物だ。己の種族を繁栄させる権利は、シーデリウム国においてすべての獣人に与えられているのだ。おちおち休んでもおれんぞ」  それは、つまり。獣人の国シーデリウムで暮らすすべての獣人に、ルトたちを孕ませる権利があると言われているのと同義に聞こえた。  もちろん、獣人のなかには人間の少年に興味がないものもいるだろう。それに仮にも、皇帝陛下が住まう王宮だ。皇帝に敵意がある獣人がいないとも限らない。後宮に出入りするには、何かしらの決め事はあるはず。  だが無難のほうへ考えたところで、ルトたちが繁殖に使われるという事実は何も変わらない。圧倒的な権力を誇るシーデリウム帝国に、獣人が何人いるのかは知らない。それでも、繁栄する国力が大きければ民の数も膨大だ。  ルトたちはたったの四十一人。朝から晩まで身を酷使されても足りないほど、飢えた獣人たちが、訪れるかもしれないのだ。 「完成体の件も含めて、陛下にはすでに報告してある。あらかたの説明を終え準備が整えば、今すぐに、ツエルディング後宮を公に開放する、そう陛下は仰せだ。従って、今日はこのままここに留まれ。明日以降は、起きたら大広間に集まれ。公に解放された直後の後宮には、毎回獣人たちが多く押し寄せてくる。大広間で顔合わせをしたのち、気に入った孕み腹を、獣人たちが選びなさる」  獣人は、好きなときに繁殖できる後宮が開放されるのを、今か今かと待ち望んでいる。後宮の門番が、閉ざされた鉄柵をいつ開けるかと期待する。大広間に集まるルトたちを品定めして、みなぎる欲望を、発散させるために。 「ゃ、だ……」  誰かが放った震える声に、魔術師が片頬を上げた。いやな笑みだった。 「なに。獣人たちの相手を務めるかわりに、これからはお前らにも、多少の自由は与えられる。空いた時間に自由に食事をとるもよし。ツエルディング後宮の敷地内なら、どこへでも好きな時間に出歩くもよし。大浴場の湯浴みもいつでもできる。ただし、その足環が振動したら、どこにいようと必ず大広間に戻るのだ」

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