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 ついそんな言葉が出てきたのはやむをえまい。呟きを拾ったグレンは、蜂蜜色の瞳を見開いて凝視してきた。驚いた顔でまじまじと見られたが気にならない。ただグレンが、興味深げに呟いた言葉には眉を寄せた。 「へぇ? ほんとに意外だな。なんにも執着しないラシャドに、そこまで言わせる孕み腹なら、俺も一回くらいは見てみようかな」 「てめぇな。まじうぜぇ。てめぇこそ孕み腹に興味ねぇだろ」  これまでグレンが孕み腹を使った情報は聞かない。行動をともにする皇帝が、人間に近寄らないせいもあるのかもしれないが。二十歳を迎えるグレンは、男盛りのわりに浮ついた話が一切なかった。  孕み腹を使わずとも、彼の立場や風貌なら言い寄ってくる相手は多い。しかしグレンに粉砕した獣人は口をそろえて言うのだ。『お堅い奴だ』と。  色恋沙汰ではなく、日々の政務や武術の修練に精をだす。孕み腹どころか、性欲にさえ興味をみせない奴だ。大広間で皇帝に痛くもかゆくもない暴言を吐いた孕み腹など、とっくに記憶から消し去っただろう。万が一、グレンがツエルディング後宮に通う日があれば、それは天と地がひっくり返るときになる。  たかが冗談とわかっているが、聞き捨てならなかった。常日頃から孕み腹を使う獣人ならいざ知らず。色欲に無頓着なグレンが興味を見せるのはどうしてかむかつく。それも、ルトひとりに注目するのが苛つくのだ。  あけすけに睨むラシャドの視線にグレンが苦笑した。 「言ってみただけだ。俺は陛下の身辺整理をするだけでも忙しいんだ。陛下に近くある、獣人や魔術師たちの行動はたいてい俺の耳に入る。当然陛下もご存じだがな。いつも長続きしないお前が、ここのところ、毎日後宮に通っているから不思議だった」 「あーそうかい、嫌な身分だ」

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