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「いてっ。叩くなよラザ。俺だって言いたかないけど、避けてとおれないんだから。知らないより知っておくほうがいいだろ? エミルにとっても、……俺たちにとってもさ」
整った顔立ちに、少し大きめの青みがかる瞳を歪ませたユージンが、悔しげに唇を曲げた。賢くて、運動もできて。ユージンはルトと違い裕福な家庭で育ったと聞く。もし獣人の孕み腹なんかに連れてこられなければ、さぞ女の子に人気があっただろう。
「そう……だけど」
活発なラザが顔を俯かせて口ごもった。避けてとおれない。その言葉はラザに言ったのだろうが、ルトは自分に言われているような気がした。無意識に自分の下腹を撫でる。
孕みたくないと、ラシャドに泣きながら懇願したのが二日前。あれからルトの足環はまだ変色していない。その間にも多種多様な獣人を受け入れる身だ。
それでも未だに変化はない。腹のしこりは残ったままだが、実は偽子宮などではなくて子は孕まないのかもしれないと、そんな淡い期待をまだ抱いていた。
往生際が悪いと自分でも思う。だがどうしても受け入れられない。ルトはユージンに目線を向けた。
「ユージンは、今の状況を受け入れているの?」
少年に似合わない自嘲の笑みを浮かべ、ユージンがルトを見つめてきた。
「受け入れるもなにも。エミルの腹を見ろよ。俺たちが毎日獣人どもに犯られてんのは、繁殖力が弱い獣人が子作りするためだろ。だいたいだ。獣人どもは、好きに犯せる後宮に通うのを心底楽しんでる。いつかは必ず孕むんだ。今更だよ、ルト。嫌だと足掻いて、ここから逃げて、トンミみたいに廃人になるのは、俺はごめんだ」
ルトとラザとパーシー、そしてエミルが押し黙った。
トンミは正気を失くしたように、朝から晩まで大広間で獣人たちを受け入れていた。後宮で与えられた自分の寝台に戻ることもせずに。
戻ってきた初めの頃は、なにかの物音や陰にさえ怯えていたように思う。だが心底怯えても獣人に呼ばれたら身を差し出す。拒めば手酷い仕置きがある。地下室の懲罰部屋に、連れていかれることもあった。
共に寝起きする、ルトたちの存在にすら怯えていたトンミだが、徐々に怯えを見せなくなった。どころか、獣人の逸物を咥えていないと居心地が悪そうにそわそわして、常に獣人を体内に招き入れるようになったのだ。
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