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健康的に日に焼けているものの、小麦色とまではいかない。贅肉のない、引き締まった体格だ。性欲を発散する相手が欲しいならより取り見取りだろう。それなのになぜこんなところで、貧相なルトの膝枕なのか。
好きなときに、好きに犯せる穴が身近にあるから、傍に置くほうが便利なのかもしれない。自分の立場を忘れてはならない。ルトは自虐の笑みを浮かべた。でも最近ラシャドといると、立場を忘れてしまいそうで怖い。
ツエルディング後宮で、こんなにも穏やかな時間を過ごすのは初めてだった。あれほど孕みたくないと思っていたのに、皮肉にも、ラシャドの子を宿したこのときが。
そういえば、ラシャドはいつからか、ルトを必ずひとりで呼んでいたなと今になって思い至る。後宮が解放された初めは複数で挑まれることもあったが、少しずつルトを他の獣人と共用しなくなった。
何人もの獣人を受け入れるから、大して意識しなかったが。ただの気まぐれか、偶然が重なっただけかは知らないが。
膝の上で眠る、ラシャドの顔つきは穏やかだ。本に囲まれ安らかな寝息を聞いていたら、ほんのひとときでも村にいた過去へ、戻れた気がする。ジャンやリドリーにも絵本を読んで、こうして膝枕をしていた。
ルトの音読を聞きながら、小舟をこぎだす頭を膝にのせて子守唄を歌う。今はただ、懐かしい。ささやかな日々がずっと続くと信じていた居場所へは、もう二度と戻れない。遠い地にいても、せめて、元気であってほしい。
ひたすら幸せだった思い出だ。ルトの胸がつまり小さく喘いで息を吸う。安らかな空気に包まれて、胸いっぱいの過去に、たまらず想いをのせて口ずさんだ。
いとし子 いとし子 かわいい子
ゆら ゆら ゆられ おねむりよ
この手のなかで おねむりよ
夜風にゆられ 木の葉もうたう
小鳥もそよ そよ 眠りゆく
お月さまが ほほ笑むなかで
慣れ親しんだ子守唄を歌い終われば、ラシャドの口元が緩く笑みを浮かべた気がした。穏やかな寝息には乱れがないから、きっと思い過ごしだろう。眠りの邪魔にならない小さな声だったが、起きない様子に安堵した。
静けさに身を置いて、いたずらに時間が過ぎる。手渡された懐中時計に目を移し、ルトは遠慮気味に、優しくラシャドの肩を揺さぶった。
「――そろそろ起きて、十分たったよ」
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