141 / 367
13-(4)
走って走って、ひとりきりになってようやく足を止める。近くの木に背をあずけ、乱れた息を落ち着かせた。そのときになって、初めて複数の足音を認めた。
「おやぁ。こんなところで迷子か? へへっ、おいお前ら! 獲物だぜ」
「こりゃいい。奉祝の儀にあやかって、俺らにも子ができるかもな」
「子なんてどうでもいいさ、好きに犯せる穴さえあればいいのよ。誰から犯る?」
頭についた三角の耳をひくひく動かし、左右から二人の獣人が近寄ってくる。最初にやってきた正面の獣人は、耳はないかわりに、頬に浮かぶ鱗を長い舌で舐め上げた。
「とりあえず押さえつけちまえ」
「ひ――っ」
三人が一斉に襲いかかってきた。ルトはもつれる足を必死に動かす。何もない空中に手を伸ばし、獣人たちに背を向けて駆けだした。しかし逃げ切れるわけがなかった。一瞬で後ろから地に押さえつけられる。捕まったルトの身体は容赦なく叩きつけられた。
「ぐ、ぅっ」
「バカだね、たかが孕み腹が。大人しく犯られてりゃ、すぐ輪姦まわして終わらせてやんのによ」
「一回で満足してやる保証はないがな」
誰だかわからない笑い声が背後から響き、ルトの服がつんざく音を立てて引き裂かれる。もがき暴れるルトの細い手足が、地面の上を泳ぎ、落ち葉を掻き分けた。
生きたまま体幹を固定された昆虫と同じだ。靴底で背中を踏まれ、悔しさに涙がにじむ。しかし、ひとりの獣人が戸惑いを見せた。
「こいつ……狼族の匂いがついてる。すげぇマーキングの匂いだ。孕んでんじゃねぇのか……?」
押さえつけられた力がわずかに緩む。だが解放はされない。困惑した獣人とは対照に、他の獣人は強気な態度を崩さなかった。
「気にするこたぁねぇだろ。なんてったって、俺には強力な後ろ盾があるんだぜ。だいたい、孕み腹の宮殿ならまだしも、ここは俺らが自由にできる後宮の敷地内だ。こんな所をうろついてる孕み腹が悪いのさ」
「それもそうだ、種付けした父親の敷地を荒らしたわけじゃねぇ。おい、犯る気がねぇなら押さえときな」
うつぶせのまま裸に剥かれた背中に一人目の獣人が馬乗りになる。二人目が頭側に移動し、細い両腕をひとまとめに掴みあげた。残る三人目は、跳ねる両足首を掴み力任せに引き伸ばした。
「ひっ、や…っ、やぁ…っ…」
ともだちにシェアしよう!