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 ルトの足を掴んでいた獣人の巨体が一つ。砲丸を受けたように吹っ飛んだ。踏みつぶされるような声とともに、離れた場所でひとりが地に伏せたのを、滲むルトの視界が追う。  上下からルトを嬲っていた獣人たちも、警戒して辺りを見渡した。押さえつける力が明らかに弱まる。じゅるりと、小さい口からでこぼこした陰茎がとりだされた。 「げほッ……」 「なんだ? おいっ、何が起こっ――」 「ぁがっ」  目の先だった。口腔を犯していた獣人は手毬のように軽々と宙に浮き、地面の上をバウンドする。そのままころころと転がって、ついには動かなくなった。  ルトはむせながら、必死に状況を把握しようと顔を上げる。そこには思いがけない人物がいた。考えないようにしているのに、ルトの記憶からちっとも出ていってくれない獣人が。 「な、ん……」  まさか、なぜ。ルトの目が驚愕に見開く。かすれ声をだしたルトの視線に、姿勢正しい獣人がふわりと応えた。颯爽とした凪いだ風を感じさせる出で立ちで、上半身を起こしたルトに身体を向ける。 「立てるか、ルト」 「グ…、グレン……、さん……。なんで」  グレン・マトス。もう一度会ってみたくて、でも会えなくて。また話をしたいと思って諦めた。なのになぜこんな場所で。  優しい蜂蜜色の瞳とルトの視線が交じり合う。動きが止まった隙を逃さず、ルトを貫こうとしていた獣人が、速攻でグレンを襲った。 「なんだてめぇ! クソがぁ!」 「あ……っ!」  ルトの目では追いつけない俊敏さだ。怒った獣人がグレンに蹴り出した。だがグレンは姿勢を崩さず、両腕を交差させて鋭い蹴りを防いだ。  獣人の脚力に乗って後方に身を引くと、反動を利用して地面を蹴って前に跳ぶ。体勢を崩してよろける獣人に、拳を突きだした。しかし獣人は素早い拳を鼻先でかわし、大きな身体を傾かせる。瞬間、息もつかせぬ間にグレンの片足が、獣人の顎をめがけて空を切った。 「ぅぐッ」  豪快にグレンの片足が円を描いて回転する。加減なく回し蹴りをされた獣人は、あまりの衝撃で空中を移動した。しかし勢いは止まらない。離れて立つ背後の大木に全身を打ちつけて、木の葉を散らしてずり落ちた。

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