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 訪れた静けさに、思わず安堵の吐息が零れる。地に座るルトの身体から力が抜けた。グレンは自分の羽織りを脱ぎながら、ルトの傍に来る。手にした羽織りを、そっと裸体に掛けられて、力の入らない身体を引き上げられた。散った小枝を持ち上げるように、軽々と。 「わ……っ」 「驚かせたか。軽いな、慣れていなくて。居心地悪いだろうが、少し我慢してくれ。こいつらが起きる前に場所を移る」 「……ごめんなさい」  ルトが勝手に、朱華殿を飛び出したからいけなかった。あれだけ念を押されたのに。あのまま三人の獣人から嬲られようと、ルト自身の責任だった。文句を言える立場にない。  顔を曇らせてうつむけば、グレンの手がルトの背中をぽんと叩いた。 「飛ばすぞ。揺れるから、俺の首にしっかり捕まって」  グレンは片腕でルトの身体を支え、人間とはかけ離れた身体能力で風を切った。ルトひとり腕に抱いても疾風のように軽々と駆けてゆく。重力などものともせず、グレンは空高く跳躍した。  支えられながら、グレンの首にぐっとしがみつく。こうやって他人にしがみつくのは何年ぶりだろう。誰かに身を預けるのは物心ついてからなかったと思う。身内がいないルトは、心のどこかで遠慮していた。  みっともない。今の状況はルトのせい。エミルに会いたいと、無理やりついてきたくせに、迷惑をかけてしまった。そして、エミルにも。情けなさで唇を噛んだルトに気づいたのか、羽織りに包んだルトをグレンはそっと地面に座らせた。  あっという間に遠くまで進んでいたようだ。ルトから距離を置いたグレンは、魔術師に孕み腹を見つけたと報告している。交信を終えたグレンはルトの目の前にきて、真剣な優しい瞳がルトを捉えた。 「君がいなくなったと魔術師から報告が来た。ちょうど陛下が、王宮に戻る帰り道でだ。ラシャドはすぐにでも飛び出しそうな勢いだったが、陛下の警護中でな。代わりに俺が。連絡を入れないと、君は逃亡者として扱われてしまう」  逃げた孕み腹の捕獲はもちろんだが、精鋭兵は皇帝の護衛を何より優先しなければならない。移動中の皇帝を放って、ラシャドがルトを探しに来られるはずがなかった。報告を受けたグレンが皇帝を通し、そのまま駆けつけたという。 「ま、待ってください。グレンさんとあの人は知り合い?」  ラシャドとグレンの意外な繋がりを知らされて、つい話の腰を折ってしまう。困惑したルトに、グレンははっきりと頷いた。

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