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皇族が絡んでいようが関係ない。前回の分も上乗せして、たっぷりと返してやる。ラシャドは短く言い残し、何か言いたげに口を開くグレンから背を向けた。背後でグレンが叫んでいたが耳を貸すつもりはなかった。
腕章にある飛報石のロックを早々に解除する。応答した魔術師に、怒りを抑えた声で低く告げた。
「剣を用意しろ。切れ味のいいやつを、六人分だ」
後宮をしらみつぶしに探し、いくつめかの庭園でやっと目当ての獣人どもに遭遇する。ようやく見つけた。ふんぞり返って騒ぎ立てる姿を目にして、端正な顔に酷薄な笑みを浮かべた。
「マルクスとニクラスだな」
双子の蛇とその取り巻きは、孕み腹をひどくいたぶるのを好むらしい。ほぼ毎日通っては、今日の腹は締めつけ具合が悪かったと面白おかしく話している。金魚の糞がマルクスに二人。ニクラスに二人。性癖が合うもの同士、たいていそろってつるんでいた。
横柄にふるまう六人の前に、ラシャドはひとり立ち塞がった。六人の獣人が横並びになっても、余裕のある庭園だ。両脇には花が並び、自然を満喫できる空間だった。
そのど真ん中にラシャドが仁王立ちする。気分よく進む道を邪魔されて、中央にいる双子のひとりが気色ばんだ。
「んだぁ、てめぇ。退きやがれっ! 俺らが誰か知ってんのかぁ?」
「知ってるさ。先日は俺の孕み腹が世話になったんでね」
静かに、低く恫喝したラシャドに双子と取り巻きの顔色が変わる。ようやく紫苑殿の主だと認識したのだろう。不穏な空気が急激に流れ獣人たちがしり込みした。しかしもう片方の蛇が前に出て、唾を飛ばしてがなり立てた。
「俺らに手ぇ出したら、ディートリヒ殿下が黙ってねぇ!」
「あいにくだが。俺はお前らみてぇに、皇族に尻尾を振るほど落ちぶれちゃいねぇんだ。お前らが俺ひとりに負かされたと、このあと殿下とやらに泣きついても気にしねぇな」
皇族など何でもないと、ラシャドは手にしていた数本の剣を目の前の獣人たちに投げ捨てる。
「ついさっき魔術師に準備させた。お前らの剣が六本ある。貸してやるからかかってこい、全員まとめて……全力でだ」
さすがに馬鹿にされたとわかったのだろう。残る獣人たちが、顔を真っ赤にして鬼気迫った。
「精鋭兵だか知らねぇがお高く留まりやがって! 孕み腹をどう扱おうが勝手だろう! あれは繁殖するために飼われた穴だ。どう扱おうと、この国が黙認してんだ! たかが孕み腹の淫乱に骨抜きにされた腰抜けは、引っこんでろッ」
「はッ! よく言った。その腰抜けにお前らは今から叩きのめされるがいいさ。しっかり聞けよ。確かに孕み腹は国中の獣人と共用するモノだ。だが断りもなく、俺の縄張りをめちゃくちゃに荒らしてくれたな。その対価は払ってもらおう。俺が直々に相手になってやる」
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