182 / 367

16-(6)

 しかし、今度は数本の刃が一斉にラシャドを襲う。瞬時に身を引き、剣と鞘を逆手に持ち換え体躯の前で交差させた。複数の刃が激しくぶつかる金属音が響く。振り下ろされた重なる圧力を、一身に引き受けた。  腐っても獣人だ、技はなくとも力はある。ラシャドは砂利を滑らせて両足を踏ん張ると、両腕を奮い立たせて持ち上げるように薙ぎ払った。 「っらァッ!」  複数の剣を弾き返し、透かさず地面を蹴って勢いに乗る。砂埃が巻き上がった。力負けして体勢を崩した獣人との距離を縮め、下から剣を振り上げた。かわせなかった獣人の横腹から胸へかけ、血しぶきが飛んだ。 「ぎぁ……ッ!」  切り付けた相手が悲鳴を上げる。血をまとった剣はさらに激しく宙を舞った。綺麗な曲線を描くと次の獣人を標的にする。目にも止まらぬ速さで剣をしならせ、左右から向かってくる獣人の胸を一文字に切り裂いた。  左手の鞘で剣先を止め、乱れたシャツの裾を翻し、二つの剣をくるくると回す。両腕で自在に剣を操って、背後に迫った二人の獣人を、後ろ手に突き刺した。 「ぅぐッ」  確かな手ごたえを感じ身体の軸を回転させる。ラシャドが振り返れば、剣で貫かれた獣人は血を吐いて倒れた。鞘の強打を受けた獣人は、腹を押さえうずくまる。無傷で呻く相手へ、ラシャドはゆっくりと近づいた。  脂汗をかいて睨んでくる獣人を容赦なく蹴り上げる。地面にかがんでいた獣人は完全に伸びて、宙を舞って地に落ちた。口角から泡を吹き、仰向けに倒れた獣人の顎の骨は、おそらく砕けているだろう。 「こんなものか。見くびってくれたもんだ」  砂利音を立てて振り上げた片足を降ろす。鋭い眼光を細め、目の前で呻く六人の獣人を見下した。しばらくは、そこでくたばっていればいい。無様な姿をさらしたまま。  生々しい傷を放置して立ち去ろうと、着崩れたシャツの裾をなびかせた。次の瞬間だ。背を向けたラシャドに、物音を立てて迫りくる気配がした。 「畜生がッ!」  いちばん最初に仕留めた蛇の片割れだ。横腹から血を流し、散らばった剣をひとつ掴むと、残る力を振り絞って挑んでくる。息を切らせて背後から飛んだ鈍い刃を、鞘を持つ腕で振り向きざまに跳ね返した。  蛇の剣が弾き飛ぶ。呆然とした蛇を、立ちはだかったラシャドが烈火のごとく見下ろした。片手の剣を握り直す。鞘ではない、抜き身の剣を。そして、だらだらと汗をかく首元へ一息に振り下ろした。 「ひ……ッ!」  あまりの刃の速さに蛇が微動だにできず硬直する。だがラシャドの剣は止まらない。蛇の首と胴が、真っ二つになろうとした瞬間だった。 「――ラシャドッ!!」  ラシャドと蛇の間に、気配もなくグレンが割りこんできた。グレンの素早い剣がラシャドの剣を押し止める。重たい剣に力負けして吹っ飛ばされまいと、グレンの片足が地にめり込んだ。蛇の獣人は、一歩も譲らぬグレンの背に守られて、腰を抜かして崩れ落ちた。

ともだちにシェアしよう!