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「行き止まった先をどう進むか考えても、どうにもならん。皇帝が狂っていると思わんからな。人間を嫌う皇帝が、陛下である限りだ」
「そりゃ……あの陛下じゃな」
隊長の言い分にラシャドは顔をしかめて呟く。代々人間を毛嫌いする獣王の血筋だ。
人間を飼い子孫繁栄と謳うが、生粋の獣人としか子を成さず、ときに近しい親族とも身を結ぶ。獣人の血が濃く獣性が高い皇帝は、瞬きをするように獣化できる。
人間の腹を使う弊害だろうか。獣人はほとんどが獣化できるが、ときに獣化できない獣人もいた。
ラシャドの家系は貴族の血統を守るため、獣人同士の子を好んで作る。獣化はたやすいがそれでも体力は使う。数分もあれば回復できる程度だが。
だが、獣性の高さに比例して身体能力も上がる。ゆえに皇帝は皇帝として君臨し続ける。
王宮は、獣化できる獣人しか奉職できない。その場に存在するだけで優位に立つ、王者の気迫を感じたら、無意識にひれ伏したくなるだろう。皇帝の存在は絶対無二だ。
「主君に仕える身は、言われるがまま行動するだけだ。だったら、孕み腹と割り切るしかねぇさ」
今さらだ。我が身の所作を悔いたところで、深く根ざす卑賤意識は転換しない。割り切れなければ精鋭兵は務まらない。
渋面を作った隊長の横顔を見るともなしに眺め、そう言えばとラシャドは気づいた。
「ムイック隊長も、あまり孕み腹を抱かねぇな。隊長が孕み腹を使うのは、人間が来国した日だけか……?」
皇帝が足環を授ける初日だけか。開門の儀も進んでしようとせず、たいていラシャドが務めていた。
隊長にはすでに番がいる。数年前から子作りに励んでいるというが、頭が固いムイック隊長のことだ。番に義理立てかと考えたが、違うのかもしれない。
「俺はもともと人間の少年を犯すのは反対だった。孕み腹といえ、精通もあるかないかのあんな子どもを抱き潰して、何が楽しいんだ。とっととお前に長を譲って、あいつとの子でも作って、あとの余生を番とゆっくりしてぇんだよ俺は」
精鋭兵の隊長に座する立場と威厳を示すため、初日に少年を抱きはする。逃げる獲物を仕留める高揚感がないわけでもない。獣人の血が騒ぐのも確かだが、怯える少年を捕らえ組み敷けば、あまりの弱々しさに気が萎えるという。
精鋭兵になって初めて隊長と真面目な話をした。秘された胸の内を聞き、ラシャドは肩をすくめた。
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