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 後ろから突きあがる腹が破裂しそう。苦しくて、ルトの体内で怒張が行き詰まれば、伸しかかる背後で低い唸り声が響く。皇帝が力強く動くたびに血が飛び散って、純白のシーツが赤く染まった。  逃げる腰を掴まれているだけなのに、皇帝の爪が生身まで深く食いこむ。破られた皮膚は痛いのか痺れるのか、感覚さえなくなってゆく。かろうじて動いたルトの細い両腕が、血に汚れたシーツを這い、爪を立てて掻きむしった。  ようやく圧迫された後頭部が解放され、皇帝の太い腕が首筋に移動する。伸しかかる重みが消え、息苦しさから、細い顎先が反射的に反り返った。 「は……ッ」  だが浮いた細い首筋を背後から鷲掴みにされる。瞬時に喉が締まったかと思えば、首を絞められたままルトの身体が持ち上がった。 「ぅは……っ」  弓なりになった胸に皇帝の剛腕が這って、ルトの生肉を掻き裂いていく。体位を無茶苦茶に変えられては、下から何度も貫かれた。浮き沈みするルトの身体は、引き裂かれるたびに赤い裂傷を残し、おびただしい血を撒き散らす。  ルトのはらわたを引き裂き、隠れる内臓を引きずり出して食いつくす気か。 「ぐ……ッ、イ…ッ、……ひあっ、グぅ……ッッ」  下からずどんと突きあげられる。繋がる互いの恥骨が擦れ、完全に皇帝がルトの中に埋まった。揺すられるルトの意識はすでに朦朧とする。まともに声が出ない口を大きく開き、息を吸えば、錆びた鉄の匂いが微かに鼻先をくすぐった。  もはや腕を持ち上げる力さえない。ぐらぐらと背後から抱えこまれれば、霞む視界が激しく揺れ動いた。傷だらけになったみじめな薄い肩に、皇帝の鋭い牙が突き刺さる。強靭な顎でルトの血肉を噛み切られた。血塗れになった獲物を食い荒らすように、侵食される。 「ィう…っあ、ぁあ――ッッ!」  血を流す全身を貪られ、ルトはこのまま猛獣に食い殺されるのだ。そう、薄れゆく意識の端で思った。赤黒い血肉が、暗い視界を染めあげて埋め尽くす。快楽も欲望も何もない。  ひとり荒野に取り残された荒ぶる野獣だ。まるで、言語を忘れ、正気を失くした獣と交わっている。  奇妙な感触に意識を浮上させた。激しい凌辱を受けたルトはそのまま気を失ったようだ。これは夢か、現か。朧げな意識のなか、荒い呼吸音を聞いた気がして重たい瞼を開けた。  どうやらあの後、ルトの中で果てた皇帝も寝入ってしまったのだろう。視界に映るうす暗い殿内は豪華な内装で、ここは皇帝の寝殿に相違ない。ならば、聞こえてくる苦しそうな息づかいも皇帝のものか。けれど素肌に触れる感触に、ルトは強烈な違和感を覚えた。 「な、に……?」  この感触は、なんだ。明らかに人肌ではない。素肌に触れるすべてが体毛に覆われていて、さらさらと心地よい。確かな感覚に、正気になったルトは慌てて自分の両腕を眺めた。  あれだけ傷ついた身体が綺麗に治されている。皇帝が魔術師に治療させたのだろうか。それとも足環が呼んだのか。血の海だったはずの寝台も清潔になっていた。

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