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コルネーリォの瞳が見るからに吊り上がった。魔術師の、最高峰が集結する魔法省に身を置くのは、誉とするものも多いという。しかし一方で、縦の権力がのさばり対立も多く、のし上がるには生半可な覚悟では済まないと聞く。
親が恋しいだろう幼少期に売られ、想像もできない試練が魔法省で待ち受けたはずだ。苦難の痕跡を残すように、コルネーリォは幼少時代に魔法省の施設から逃げ出している。
複数の能力を操れるため、厳重な魔法省から逃亡はした。だが逃げきれず、捕まっては厳しい折檻を受けただろう。
魔法省はこれほどの能力者を手放さない。なんとしてでも、組織に組みこもうとしたはずだ。
「そこまでわかっているなら、なおさら的外れだ。私はもう魔法省の一員となった。孕み腹が死のうが虐げられようが、知ったことではない」
「それは違う。コルネーリォ、君は他の魔術師と違って、孕み腹に進んで折檻しようとしない」
むしろ折檻されそうになった孕み腹を庇った経緯の記録もある。コルネーリォに次ぐ実力派の、アードルフという魔術師に手を引かせたとあった。
アードルフも能力は高く手腕家だ。だが彼は孕み腹をいたぶるのを好む。コルネーリォとは心根が違う。
「コルネーリォ、君は従順なふりをしているだけだろう。本心では、孕み腹に幼い自分を重ねているのでは? 何度も抗って、屈服させられて、そうやって今の姿になった。まさに菖蒲殿の少年も、過去の君と同じ道をたどろうとしている。君みたいに感情を失くした冷たい瞳で、本心を隠す淀んだ未来を、歩ませたくない。手を貸してくれ。あの少年の未来を……命を。奪わないために」
懸命に命をつなぐ、ルトの輝きを曇らせたくない。強い意志をこめてグレンが言う。しかしコルネーリォはくっと片頬を歪め、肩を揺らした。
「淀んだ未来を、か。ずいぶんな言われようだ。私……いや、俺とて、初めから心を捨てたわけではないぞ」
コルネーリォは直視するグレンから一度目線を下げる。ふっと息を吐いて、星が光る天を見上げた。そして挑む瞳でグレンを見た。
「魔法省は陰湿なところでね。壮絶なほど、権力と欲望が渦を巻く。うまく立ち回るには、己の情すら足手まといだ。冷徹になるしかない。それにお前ら獣人どももだ。お前らは、己の人種が最も偉いと思っている。人間の存在? いいや、魔術師の存在ですら、獣人にとっては簡単に踏み潰せる蟻同然。だというのに、魔法省は天下の獣人のご機嫌取りで大忙しだ」
太古の時代、精霊の血を分けたもの同士。死なずに生き延びた神の末裔だと魔法省はえばり腐る。神に力を与えられた、選ばれし特別な存在だと。魔術師の国ゼルファーダは、どこよりも信仰心が厚かった。熱狂的ともいえるだろう。
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