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「たかが人間が自然を操る力を得、たかが動物が言語を得たのだから、当然ともいえるか。本来ならただの人と獣であるのにな。馬鹿らしい」
魔術師の本質は獣人よりも人間よりだ。文化も生活習慣も似通う。はるか昔に勃発した争いで、獣人の手を取って人間と敵対できず、侵略した人間も庇えずに。
戦火に巻きこまれまいと、どっちつかずの状態で徹底的に傍観した。そして圧倒的な獣人の力を見せつけられ、自国に火の粉を飛ばすまいと獣人国についた。
魔術師は、最高の力を持つものを皇帝のもとへ送り出し、忠誠を誓う。
恨みをぶつけて吐き捨てる主張に、グレンは口を挟まなかった。ただ、少しずつ感情が露わになる若草色の瞳を見つめた。
どこまでも受け入れる姿勢のグレンを試すように、コルネーリォは決して語られないだろう真実を告げた。
「なぜ完成形が存在するか推測したことは?」
「……わからない。理由を知っているのか」
完成形といえば朱華殿のエミルだ。エミルが生き延びたのはルトの――魔術師の力だと、ルトは言った。事実であれば、完成形には魔術師が関わるのだろう。だがルトが言ったのは生き残れた経緯に過ぎない。
生き延びてなお、ふたなりに成るものと成らないもの。その線引きはどこにあるのか。
「魔術の力を持つ精通していない少年が、ふたなりになる」
「何だって?」
グレンは耳を疑った。成人前の少年が、核種胎を受け入れやすいと結論づけたのは魔法省だ。魔術を持たないグレンたち獣人は、報告を鵜呑みにし、皇帝は少年を貢ぐよう伝令を出す。それを。
「我々魔術の力を有し、精通を終えていない男として未発達の少年が、肉体を作りかえられる。ふたなりへとな。これが何を意味するのか、グレン殿にお分かりか」
こちらを見つめる若草色の瞳が鋭く光った。グレンの能力を見極める口ぶりで挑まれる。言葉の裏に隠されたコルネーリォの言い分を、正しく受け取った。
魔術の力を持ち、且つ精通を果たさない少年が条件であるならば、魔術師は。血の気が引く思いで口元を押さえ、グレンはくぐもった声を出した。
「魔術師が……、人間ではなく魔術師の子であれば、いつでも確実に、完成形を作り出せるのか……。では人間は、目くらましになる……」
これまで、星の数ほど犠牲になった人間のうち、ほんの一握りしか存在しなかった完成形だ。
「そのとおり。魔法省は真実を闇に葬り、獣人に目をつけられないよう人間を差し出す」
少年は核種胎が定着しやすいという真実の裏に、完成形という極わずかな奇跡を織り交ぜて。そうして魔術師は言う。これぞ、神の導きだと。
「いわば人間は、我々にとっても生贄だ。獣人の非道さを、間近で見続ける魔術師であるからこそ、徹底して秘密は守られる。この真実を知るものは、魔法省でも高位の魔術師しかいない」
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