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むろん、力がない人間でも生命力が強ければ、生き残るだけなら可能性は十分ある。しかし生まれ持つ肉体を根こそぎ作りかえるには、魔術の力が必要だ。年端もゆかぬ、少年の魔術師が。
人間の孕み腹が役に立たなくなったとき、隠された真実をもしも獣人が知れば。先にふたなりへ作り替えておき、成長すれば子を孕ませる。そう言い出す獣人が、出てこないとも限らない。
目をつける存在が、人間から魔術師へ。魔法省は、獣人が、虐げる標的を変えるのを恐れたのだ。
「真実を知らないその他大勢の魔術師どもは、馬鹿げた信仰心に踊らされ、忠誠を誓う。我が子さえも差し出すほどな。古代の始まりの火の粉を飛ばすまいと、人間との混血児をヌプンタに捨てる。そして偶然にも貢ぎものとして連れてこられれば……その人間が、完成形の卵になる。茶番劇のようなからくりだろう?」
コルネーリォの皮肉な声が響いた。人間との恋路を進んでする魔術師が、多いわけではないだろう。ヌプンタに捨てられる孤児はわずかかもしれない。
けれど、その孤児がヌプンタで子を成し、さらに子孫が増えれば魔術師の血脈は途切れない。
「もし事実が大勢に知られれば、ヌプンタに子を捨てる魔術師が減るかもしれない。ゆえの秘密でもある」
人間だけに焦点をあてるよう魔法省が仕向けたのだ。獣人のみならず、同胞の魔術師さえも欺いて。
二重三重に秘密の箱を作り、人間を踏み台にする。後宮でいたぶられるのは、自国の力を持つ少年であるかもしれないのに。
「反吐が出る。己の身を守るため、すべてを承知で人間を差し出す魔法省にも。力を誇示する獣人にも。だがいちばん笑えるのは、こんな俺が、魔法省に目をつけられるほどの力を持つということだ」
我が子を売った親を恨み、同胞を欺く魔術師を憎悪し、弱き少年をいたぶる獣人を嫌悪する。いつ反旗を翻してもおかしくない。魔法省も王宮も、時限爆弾を抱えたのと同じ。
「天は力を授けるものを間違えたな。どうやらはるか昔に、我ら同胞に力を与えた神も耄碌するらしい。最も与えてはならない存在に、よりにもよって、いくつもの術を操れる最強の力を与えたのだから。皇帝に身をささげる貴殿にとって、俺は諸刃の剣かも知れんぞ。他を当たれ」
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