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突きつけられたコルネーリォの真相に、グレンはしばし絶句した。なんと腐敗しきった世の中か。獣人が人間を孕み腹にする弊害が、こんなところにまで及んでいたとは。
一呼吸置いたグレンは、強い意志を固め、優しい風貌を滾らせた。
「違う。天は力を授けるものを見誤ってはいない。その力は、現状を覆すのに必要な力だ。本当の意味で、魔術師たちの言いなりにならなかった、君への天からの贈り物だ。その力を、どうか貸して欲しい。君がこれまで抑えつけられてきた憤りを、自らの力で打ち砕きたいと、思う心が残っているなら」
強大な力を有しながら、魔法省に屈して生涯を終えることこそ愚か。幼い頃は越えられなかった巨大な壁を、今からでも打ち砕けばいい。ひとりでは難しいならグレンたちが力を貸す。小さな裏切りを、大きな波紋へと導く足掛かりにすればいい。
人間にも獣人にも魔術師にも利用されたルトを、グレンは守りたい。そのためならどんな波風だろうと恐れはしない。目の前のひとりの協力さえ得られずに、何を守れるという。どれほど突っぱねられようと、必ず突き破ってみせる。
揺るがない信念を固めたグレンの真摯な瞳に、コルネーリォの双眸が見開く。グレンに向かう見張られた若草色の瞳が、深く閉じられた。軽くうつむくと、少しのあいだ沈黙し、ゆっくりとグレンを見る。ガラス玉の瞳ではない、強い意志が宿る瞳で。
「俺の負けだ。信念と……覚悟を貫く、あなたの熱意に敬意を示そう。要求をのもう、グレン殿。助けたいという少年は、それほど大切な存在か」
微かに頬さえ緩ませたコルネーリォの問いに、グレンは心の底から頷く。コルネーリォが、魔法省の目をかいくぐるなら、グレンは絶対的な存在を裏切ろう。
「ああ。とても、大切だ」
皇帝を欺いてでも、守りたいほどに。
誰も近寄らない裏山の、早朝の空気は静謐だ。森林が生い茂るなかグレンはラシャドを連れて、新たに引き入れた仲間を呼んだ。
協力者の存在はあらかじめ伝えたが、魔術師と獣人がこうしてじっくり顔を合わすのは初めてだろう。二人の初対面の成り行きを、とりあえず交互に見守る。
ラシャドは地べたであぐらを組んで動かない。漆黒の両目を細め、胡散臭げにじろじろと目の前の魔術師を見る。落ち着きなく尻尾を動かし、地面を掃除していた。対するコルネーリォは無表情だ。グレンの隣で横柄に構えるラシャドを、若草色の冷たい瞳が冷静に見返した。
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