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「それで。貴殿は何をしにここへ? ラシャド殿」
「何でもいいだろ。とっとと報告しろ、あいつはどうだ」
名指しされたラシャドが粗雑な口ぶりで言う。不躾な態度に、向かい合うコルネーリォの視線が厳しくなった。
この二人は相性が合わないのだろうか。一言目で一触即発な雰囲気に、グレンが口を出した。
「言い合う暇はない。コルネーリォ、こいつは協力者だ。敵じゃない。俺と連絡がつかないときは、ラシャドに何でも言ってくれ。ラシャド、焦る気はわかるが、感情を剥き出しにするな。話が進まない」
瞬間、ラシャドがちっと舌打ちした。場の空気が流れたところで、コルネーリォが肩をすくめた。
「驚いたな。まさか、高位の獣人が二人で同じ腹を取り合っていたとは」
「取り合ってねぇ」
むきになるラシャドにコルネーリォがせせら笑う。ラシャドとコルネーリォの言い合いに、グレンはため息をついた。舌の根の乾かぬうちに始まった舌戦に、軽いめまいに襲われて眉間のしわをほぐす。
「いいから。早く菖蒲殿の状況を教えてくれ。ルトはどんな感じだった? 出産まで持ちそうか」
グレンの手を取ったコルネーリォは、指示どおり早々に菖蒲殿の宮殿付き魔術師になった。やり方は好きに任せると言ったものの、昨晩の今朝で相当な仕事の速さだ。
コルネーリォ曰く、ほんの少しのあいだ持ち場を交代してもらった『だけ』というが。力づくの結果だろう。
孕み腹の点検は通常ならば毎日しない。しかし孕んだ腹の全身管理は魔術師がすべて担う。宮殿付きになれば、無理やり難癖をつけて、いつでもルトの状態を見られるのだ。
コルネーリォは偽りの報告書を提出し、菖蒲殿での治療は毎日必要と偽装した。孕み腹関係なら、グレンの判断でもある程度は許される。認を押したのはグレンだ。昨夜はルトの全身状態が著しく低下した兆候があったと虚言して、殿内を探ってくれた。
「実際、状態は良くないな」
ルトは食事をとらない……というより、とれなくなっていた。グレンの言うとおり、腹の子はジェヒューの子種と核種胎の力で育っても、ルトは弱る一方だ。子を産む頃には虫の息になってもおかしくない。
「食べやすいものを与えてみたが、食事を受けつけなくなっていた。吐くんだ。ひとまず手持ちの、回復系の丸薬を与えたが……あれ一粒だけではな。水分もろくにとれていない」
「なら、俺がなんとかしよう。ルトが食べやすそうなものを用意するから、君は試しに、菖蒲殿であげてみてくれ。何か食べられるものが、あるかもしれない」
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