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グレンの提案にコルネーリォが頷く。これからいつでも連絡が取れるよう、三人の頭文字だけを刻んだ、小型の飛報石を作るとコルネーリォが言った。そんな便利なものがあれば大助かりだ。
魔法省で持て余すだけだった能力を、存分に発揮できるようで、意外にもコルネーリォは楽しそうだ。ほとんど動かない顔つきはたいして変わらないが。
「すごいな。そんなものも作れるのか」
「子どもの頃は逃亡道具を開発しては、捕まるたびに没収された」
心強い味方にグレンが大きく頷く。ラシャドも感心した顔つきだ。しかしまたもや余計な一言を飛ばした。
「何かあればすぐ教えろよ」
とたんにコルネーリォは嫌そうに仏頂面をする。昨日の冷たい表情が嘘のようだ。素直な感情の発露を見たグレンは、思わず苦笑いした。
だがすぐに顔つきを引き締めて、コルネーリォを見た。
「コルネーリォ。孕み腹のことで、どうしても、君に手を貸して欲しいことがある。ルトの件とは別だが、できればできるだけ早くにだ」
***
その日から何度も内密に集まった。だがそれぞれが職務の合間を縫ってのやり取りだ。都合がつきやすいグレンはともかく、ラシャドは護衛で動けないときが多い。何よりルトとの噂がついて回る。ラシャドが大馬鹿をやらかさないように、精鋭兵の監視もきつい。
もしここで、誰かに密会が暴露したらすべては水の泡だ。慎重に行動しているものの無理をするなと言っているが、それでもラシャドは、仲間の厳しい目をくぐり抜けた。日に日に弱るルトに、グレンと同様焦りが募るのだろう。
ルトはグレンが用意した食べ物も、数口食べただけで吐いてしまったという。しかし、果物に似た果汁の多い木の実だけは、少量ずつでも食べられたと聞き胸を撫でおろした。それからは丸薬と一緒に、甘酸っぱい木の実も毎日持っていってもらった。
必要以上に菖蒲殿へ介入するコルネーリォに、ジェヒューらは反発したようだがさすがは獣人嫌いの魔術師だ。実力行使といおうか。報告書の偽造に加え、ときに魔術を駆使し、ルトに対する過激な暴力を阻止してくれた。
何よりコルネーリォから、ルトの詳細を聞けたからこそ冷静さを保てたのだ。グレンもラシャドも。
そして、やっとだ。待ちに待った日が来た。幾日もの朝を迎え、執務殿に送られた至急の報告書に手が止まった。魔術師コルネーリォからだ。
思わず机に身を乗り出して報告書を引っ掴む。こと細かな情報を流し見て、素早くページをめくった。最後までひと息に読み切ると、知らずに詰めた息を吐いた。
大きな窓を背後にし、玉璽を押す皇帝を慌てて見やる。
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