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グレンの傍にいるときだけは、ルトは清らかな姿であり続けられる。穢れを知らない頃の、純粋だった自身を慈しみ、守りとおせるのだ。
ときどき不意をつかれて、優しい手に触れられたら、ルトの小さな心臓が全身を駆けて跳ねる。それはたまに悪さをして、ルトの芯をくすぐり身体を熱くさせることもある。そんな、淡い恋情に、揺さぶられるときもあるけれど。それでも、獣じみた肉体をグレンに見られるのは嫌だった。
純白なふりをするルトが、どんなに汚いか。醜いか。爪の先までけだものの欲に染められたか。グレンに知られてしまう、それだけは。
あまりの衝撃に、悲鳴が上がりそうになるのを堪える。咄嗟に口元を押さえ、嫌々と首を振る。言葉を詰まらせたルトを、感情を持たない、冷たい金の瞳が見返した。
頬をきつく押さえた手の甲が水滴に濡れる。ルトは、自分がそうと意識せずに、大粒の涙を流したのだと今になって気づいた。
身を震わせて嗚咽をこらえるルトを、次の瞬間、皇帝は容赦なく組み敷いた。
ギ、ギ、と大きな寝台が軋んだ。うつぶせた体勢から、力強い腰を柔い尻に押しつけられる。さっき腹奥に注がれた皇帝の種が、ルトの中でかき回された。ぐちゅぐちゅと音がして、奥に入りきらない白濁が足の間をぬるく伝う。
「うぁ……ッ、あっ、あ…っ、…っ」
これで何度目の交わりか、朦朧とするルトは覚えていない。ルトが小さな喘ぎをこぼしたとき、扉に控える従者の声が、グレンの到着を告げた。
意思をなくし、力の抜けたルトの身体が一瞬で強張る。情事に赤らむルトの頬も、たちまち青ざめただろう。淫らな声を漏らすまいと薄い唇をかみしめる。皇帝と後ろで繋がっているのに、無意識に逃れようとした。
四つん這いでシーツを蹴ってずり上がる。だが奥深く挿入された長大な男根は抜け出さず、ルトの腹の奥をずるんと滑るだけだ。自分で動けば腹底に力が入り、中をじわじわ移動する皇帝を、逆に締めつけてしまう。震える手でシーツを握り、突っ伏せば、背中から皇帝が嘲笑した。
「ふ、余を食いちぎる気か。そう逃げずとも、淫乱な姿を、慕うグレンにも見せてやればよい」
「ぁ……っ、いぁ、いや…っ…嫌です、お願いです、お許しを……っ、いやっ!」
「近頃はラシャドに加えグレンも、己の立場を忘れているようだ。そなたは孕み腹、グレンは余の臣下だ――忠実な」
シーツに顔をうずめ、汗を浮かべる白い背に大きな影が覆いかぶさる。剥き出しにされた首筋に、皇帝の熱い吐息を感じた。ルトは嫌だと何度も首を振る。しかし、視界を伏せた背後で冷たい声音が飛んだ。
「通せ」
「や」
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