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やめて、背後を振り返り、懇願しようとしたとき、重厚な扉が開かれた。泣き濡れた視界の端で、軽く顔を伏せた獣人が現れる。忠の姿勢をとる人影は、二つの肉体が絡み合う寝台へ歩を進めた。
呼吸さえ漏らすまいと薄い唇を結ぶ。グレンに気づかれる前に、ルトは再びシーツに顔を沈めた。このまま、グレンが立ち去ることを願って。
吐息さえ堪えるルトの耳に、拝謁いたします、と低くとおる声が届いた。紛れもないグレンの声だ。
「このような時間にお召しとは、いかがなさいました。お休みになられたかと思いましたが、まさか、伽の最中だったとは、存じ上げませんで。御用件は?」
まだグレンは扉の近くにいるのだろう。訝しむ声は遠い。手汗を握る力がわずかに抜ける。緊張でルトの心臓が破裂しそう。目をぎゅっと閉じ、必死に首をうつむかせて顔を隠す。
吐息と同時に溢れる声も抑えれば、中に居座る皇帝を全身で締め付けた。ルトを軽く揺さぶる皇帝が、背後で笑う気配がする。動きにくくなっただろうルトの奥を、皇帝が唐突に力で突き上げた。
「――ッ、…っ……ッ、……ッッ!」
連続する激しい衝撃に、ルトの細い腕がシーツを手繰り寄せる。真白い敷物で、薄い口元を塞ぎ、嬌声を堪えた。けれど猛々しい腰を打ちつけられる音と、弾けた水音が、静まる殿内に響き渡る。
身体を震わせたルトは、伏せたまま逃げようとずり上がった。無言でルトを責める皇帝に、しびれを切らしたのはグレンだった。
「陛下、御用がないなら私はこれで」
「もっと近くに寄れ。そなたにも、これを抱かせてやる」
「……ッ、ぅ……ッ!」
皇帝の容赦ない言葉に、思わず叫びだしたくなるのをどうにか耐える。口元を覆う腕が震えた。揺さぶられるルトの耳に、誰かの足音が近づく。少しずつ、確実に。
グレンだろうか。来ないで、来ないで。張り詰めたルトの気が限界に達したとき、苛立ちをにじませたグレンの声が届いた。思いのほか近くで響く。
「お応えいたしかねます。陛下の寝台に共にあがるなどと、そのような愚行は侵せません。どうか命のお取り消しを」
「余が構わぬと申しておる。どうしてもというなら、そなたはそこで見物するだけでもよいぞ。もっと近くに来い。もっとだ。もっと。そこで止まれ。面を、上げるがいい」
グレンの意思を尊重するやわらかな皇帝の物言いは、けれど拒絶を許さない絶対的な命令だった。揺さぶられるルトの背中から皇帝の重みが消える。次の瞬間、うつ伏せた身体をいともたやすく持ち上げられた。
寝台に押しつけたルトの視界が一気に広がる。突然の変化についていけず、明るい視界がぼやける。数回瞬きをして、涙を散らせば、寝台の前で跪く獣人の姿をはっきりと捉えた。
「あ――」
「ルト……」
目の先には、驚愕をあらわにしたグレンがいた。グレンの目の前で、ルトは背後から皇帝に貫かれた淫らな姿をさらしていた。
皇帝にもたれかかる細い裸体には、白濁すら飛び散る。せめて、大きく開いた両足を閉じようとした。だがしなやかな太ももは、後ろからがっちりと掴まれた。
抗えない腕力で左右の付け根を限界まで広げられる。皇帝が抜き差しする動きに合わせ、ルトの幼い陰茎がぷらぷらと揺れた。ちょうど、寝台の前で跪くグレンの目線の高さだろう。
「いやぁ……っ、あっ、あぅッ、うっ、うっ、見な、ぃで、見ないで……っ」
ルトの必死の訴えにグレンが正気に返ったようにぎくりと顔をそらす。だが皇帝が許さなかった。
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