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 過去の妄執を断ち切って、新たな未来を築く。それがどれほど苦しくとも、孤独であろうとも、険しい獣道になろうとも。 「長い歴史の帝王は、誰ひとりとして成しえなかった。始まりの祖の呪いを、あなたが断ち切るのです。そして、始祖の呪縛を上回るほど強い、あなたの揺るぎない意志を後世に語り継がねばなりません。獣人も魔術師も、人間も、同じく等しきものであることを。あなたはこの世の頂に立ち、それを証明せねばなりません」  獣人と魔術師と人間と。たった一つのわずかな点でも繋がったなら、結ばれた輪が途切れぬように。繋がる糸が、たとえどんなに小さな点でも、柔く、細い線だとしても。それでも幾筋もの輪が重なれば、いずれは強固な絆になろう。  今はまだ小さな、はかない繋がりにすぎないが、グレンたちが差し出す輪をどうするかは皇帝の心ひとつ。強く大きな広がりにするか。それとも、その手で引き千切るか。 「あなたがこの国を導くのです。すでに罪がない人間は、悪ではないと。あなたの慈悲を、獣人だけでなく人間にも注ぐのです。我々が誇る帝国は、人種の隔たりなどないのだと」  孤高の頂点に立ち、あるべき姿へ国を正す。それは皇帝が果たすこと。ぶつかる瞳の先で、目に見えぬ火の粉を散らし対立する皇帝に、グレンは挑む視線を向けた。天に選ばれし黄金の獅子は、しがらみを抱えども愚かではない。 「私が心血を注ぎ、絶対無二と仕える君主は、力なきものを踏み荒らす暴君であってはなりません。明君で、あらせられねば」  ルトは……人間は奴隷ではない。それをルト自身が教えてくれた。今やっと、グレンはルトの思いに応えられる。  奴隷の身分から解放することで、この先ルトと道をたがえたとしても。ルトはルトらしく、生きてほしいと願う。それはグレンの唯一の望みだ。そのためなら、皇帝の執着でも血反吐を吐く暴虐でも、何でも利用してやろう。  ひれ伏さず、胸を張り、誇らしく。前だけを向き、一歩も引かぬグレンの眼差しに、皇帝は高まる気を一気に霧散させた。  張り詰めた糸が切れたように、金色の獅子が深く息を吐きだす。王の椅子にどっしりと腰を沈め、均整のとれた背を預けた。きつく寄せた綺麗な眉根に拳をのせ、皇帝が宙を仰ぐ。手の隙間から、低く、くぐもった声を出した。

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