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「司法官長、尚書 令長、儀典長、外交官長、それと宮廷魔術師総帥を、清宮せいぐう殿へ呼べ」
国法を司るもの、あらゆる公約文書に携わるもの、国の儀式を取り仕切るもの、そして、他国と自国を結ぶもの。
シーデリウムの最高位のものたちだった。皇帝の意を一身に浴び、グレンは両膝をついて深く忠をとった。
「直ちに従います。恐れながら、陛下。各官長のほか、ある魔術師もお召しください。そのものは、必ずや、陛下のご期待に応えるでしょう」
凄まじい旋風が吹き荒れる。大国を丸呑みにするほどの。このときから、シーデリウム帝国は変わるだろう。その片鱗に、ようやく触れられた気がした。
***
清宮殿は皇帝が召すものしか集まれない。朝議殿より控えめで小さいが、国運の最重要事項を秘密裏に討議する。
出入りは厳しく制限され、私利私欲にとらわれず、国の行く末を客観的に見定める場でもある。孕み腹の廃止をかけた、負けられない壇上になる。
多方面の観点から辛辣な論争が飛ぶだろう。だが、いくら鋭く切りこまれようと策略は万全に整えた。すべてをかわし切る。ここがグレンの正念場だ。
厳粛な宮殿に、グレンのほか首脳陣である四人の官長と、魔術師総帥が招集された。総帥の補助にはコルネーリォも控える。腰を低く構える総帥が、中央に座する皇帝へ一礼した。
「此度のお召しありがとう存じます、我が皇帝陛下。こ奴は、ゆくゆくは魔術師総帥の、有力候補のひとりにございますれば。此度の件で、どうしてもお目にかかりたいと申しており。非常に強い力を同時に操り、陛下の……」
「よい。グレンから聞いておる」
コルネーリォを連れた魔術師総帥が、皇帝に深々と頭を下げる。へつらう態度を早々に制し、金の瞳は、総帥の背後で視線を下げるコルネーリォに向かった。コルネーリォが一歩踏み出す。
「我、魔術師一等級コルネーリォ・ヴェナンツオと申します。どうぞお見知りおきを」
「許す。総帥の後ろに控えよ」
拝礼を受けた皇帝が、上段から指示を出す。座する皇帝を前に、臣下が両端に並んだ。グレンは皇帝の数段下に待機する。朝議であれば、上奏を進言する下位の文官の立ち位置だ。
腰を据える皇帝の前へ、猫の司法官長が、中央へ名乗り出た。紺色の裾を揺らし、厳かに右手をあげる。静まる殿内で、淀みなく誓約を口ずさんだ。
「我、司法官長がセシリオ・マロ。シーデリウム皇帝陛下に忠を誓うものなり。全身全霊をかけて我が皇帝陛下を支え、祖国の繁栄に身を捧げん。論の証は記憶鏡 に納め、我の言葉をもって、此処で聞睹 し成さるるものを秘匿すると誓わん」
誓約に倣い臣下が一斉に面を伏せた。清宮殿では情報漏洩に備え、側近のグレンが進行役だ。情報を外に漏らさないよう、魔術師の結界も張られる厳重さだった。
書記官さえおらず、討論の証文はすべて記憶鏡に保存される。総帥が扱う鏡に殿内の様子を映し出し、映像がそのまま記憶されるのだ。
清宮殿での討論の場が整い、静かに礼をとる臣下に皇帝が告げた。
「これより孕み腹の撤廃について討議する。孕み腹をどうするべきか、考えはあるか」
待機したグレンは素早く中央に進み出る。足音もなく段差を降りると、見下ろす皇帝へ乱れなく拝礼し、火ぶたを切った。
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