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【一】生徒会長と風紀委員長の挨拶
入寮に関しては、荷物が宅配便で届いているとの事だったので、僕は入学式当日、単身で学園へと向かうだけで良かった。結構な生徒数を誇るようであるから、僕が紛れても、本気で恢斗は気がつかないと思う。
受付で案内表をもらい、僕は会場へと向かった。僕は本日から一年S組の生徒となるそうだ。S……役職持ちや、親衛隊もち、及び僕の場合のような外部生などが入るクラスといえる。外部入学生は、僕の他には二名のようで、三つだけ椅子の後ろの布の色が違った。椅子の横には、名前が書いてある。僕は今日からここで、深凪紫樹 となるのだ。
夢にまで見た王道学園! そうじゃなくても良いから来たかったんだ学校!
そんな気持ちで、僕は自分の席に座った。
変装というほどではないが、僕は自毛の色素が薄いので、髪を黒く染め、風紀委員になる予定なので、それっぽく黒い伊達眼鏡を入手してきた。
なお、僕の趣味友達は、風紀委員長になったと話していた。僕も外部で入る事と名前は既に伝えてある。どんな人なんだろう。僕は、風紀委員長攻めも受けも嫌いじゃないが、本人は、女性にしか興味がないαらしいので、リアルBLは無理だと話していた。
「生徒会役員の入場です」
その時、声がかかった。僕は噂に聞く王道学園的生徒会に興味津々で、思わずそちらを注視し――変な声が出そうになって、硬直した。先頭を、恢斗が歩いている。え?
そのまま彼らは壇上に上がった。そして、生徒会長と書かれた席に、恢斗が座った。僕は全力で顔を背けつつ、時折ちらっと見て確認してしまった。
あの――冷静沈着な感じで熱さは一番最初にあった日以降特に感じない恢斗が、『俺様生徒会長』……?
他を見てみれば、確かに作り笑いの副会長や、チャラそうな会計、物静かに座っている書記と、双子は見える。合ってる。
「続いて、風紀委員会の入場です」
それを聞いて、僕は現実逃避気味に思考を切り替えた。僕の友達はどこだろうか。見れば、先頭を、風紀委員長という腕章をした生徒が歩いていて、僕を見ると小さく息を飲んでから、ごくごく小さく頷いた。僕も全然目立たないように頷き返す事に成功した。
なお生徒会と風紀委員会が入ってきた途端、会場には黄色い声援が溢れた。親衛隊(チワワ)の声だ。期待してはいたが、予想以上だった。
その後、理事長先生の挨拶が始まった。それを聞きつつ、僕は恢斗と風紀委員長をそれぞれそれとなく二度ずつチラっと見た。恢斗が僕に気がつかない一番の理由として、ずっと風紀委員長を睨んでいて、そっちしか見ていないというのが挙げられる。一方の風紀委員長は面倒くさそうな顔だが、こちらも睨み返しているのは間違いない。
犬猿の仲の生徒会と風紀は良い。とてもよきものだ。けれど、それが自分の許婚と友人だと思うと、非常に複雑な気分である。
「それでは続きまして、生徒会長挨拶!」
司会進行をしている生徒会顧問の先生の言葉の直後、恢斗が立ち上がり、壇上でマイクの前に立った。そして会場中を見渡しながら、口を開いた。
「俺を楽しませろ、以――っ、……」
明らかに、『以上』 だと言おうとしていた時である。恢斗が硬直した。バッチリと、僕と恢斗の目が合った。すると恢斗は――ニヤリと笑った。
「……非常に大切な事を一点付け加える。一年S組深凪紫樹こと『桐緋堂紫樹』は俺様の許婚であり、運命だ。手を出したら、俺様を敵に回したと思え。以上だ」
すると会場が、静寂に包まれた。ピシッと何か、ヒビが入ったような音が聞こえた気がした。幻聴だろうか。それよりも、僕の名前が暴露されてしまった。これではどちらにしろ遠巻きにされてしまうかもしれない! 僕の夢の腐男子ライフが壊れる……!
が、直後、視線が僕に一旦集中した後、大歓声が溢れた。
どういう意味の歓声なのかは分からないが……。
しかし、恢斗が……『俺様?』。僕は、彼が『俺様』なんて口にしている姿は初めて見た。作り笑いと似たような、役作りだろうか……? なんの? 恢斗が腐男子だとは思えない。
「――続きまして、風紀委員長挨拶」
司会が華麗に仕切りなおした。すると、何故なのか満面の笑みに代わった風紀委員長が前に出た。
「風紀委員長の、二階堂相 だ。生徒手帳登録名義、深凪紫樹を風紀委員会に勧誘済みで、本人は受諾済みだ。今後、バ会長――失礼、宝灘会長が問題行動を起こした際、俺に加えて対応させる要員を確保した事になる。その為、苗字判別が俺には不可能なので名前で失礼するが、紫樹に手を出した者は、風紀委員会もまた敵に回すものと心得るように。以上だ」
それを聞いた瞬間、再び会場が静まり返った。そして、直後改めて歓声が響いた。
趣味友なりの心遣いだと思うしそれは嬉しいのだが、僕は心が痛い。
とても僕は、目立っている……。
以後、閉幕までの間、僕はずっと、様々な視線にさらされ続けた。中でも、壇上からこちらをじっと見据えて、怖い笑顔を浮かべている恢斗が、恐ろしくてならなかった。
「――紫樹」
退場となったので、会場から出ようとすると、あっさり進行を無視して、壇上から恢斗が降りてきた。そして僕の手首を掴んで引き止めた。
「どうして黙ってた?」
「――そ、の……宝灘総帥が、サプライズだからって」
僕は、恢斗のお祖父様に全責任をなすりつけた。すると、恢斗の手に力がこもった。ちょっと痛いくらい握られている。
「俺様はサプライズが大嫌いだ」
「……」
僕はひきつった顔で笑うしかできない。
「それよりも――俺様のテリトリーに来たって事は、分かってんだろうな?」
「――え?」
「行くぞ」
そのまま僕は、会場から連れ出された。狼狽えながら、僕は恢斗の顔と後方を交互に見る。
「今日は入学式だし、生徒会なら忙しいんじゃ……?」
「知ったことか」
「それじゃまずいんじゃないんですか? 生徒会長なんですよね?」
「――何故俺が生徒会長だと?」
「挨拶してたし!」
僕は何を言われたのか分からなかった。だから断言すると、少し進んでから歩みを止めた恢斗に、強引に顎を掴まれた。
「風紀委員会とはいつどこでどんな理由で連絡を取ったんだ?」
それは墓場まで持っていかなければならない秘密だ!
「言えません」
「許さない」
「え?」
「人生で初めて出来たライバルなんだよ、あいつは」
「つ、つまり?」
僕はまさかの許婚から王道学園展開暴露が来るとは思っておらず、若干胸に痛みを覚えつつ先を促した。すると、ぐっと顔を近づけられた。
「だが以後は何で負けても構わない。紫樹の事だけは渡したくない」
「片思いなんですね!?」
僕の声と、恢斗の声は、ほぼ同時に響き終わった。
「は?」
「へ?」
素直に僕が首を傾げると、恢斗が目を疑っているような顔になった。
「今、なんて?」
「だ、だから――あれ、なんでしたっけ? 風紀委員長を渡したくないんですよね?」
「いるか! 不要だ! 馬鹿か、お前は。何度言わせれば気が済むんだ!」
「え?」
「きちんと前に伝えただろうが。俺は、お前を好きだと。一目惚れだったと」
「え、ええ……でも、一回きりで、二年も前で……」
「――分からせてやる」
そのまま僕は、掠め取るようにキスをされた。動揺していると、強く腕を引かれ、そのまま寮まで連れて行かれた。エレベーターに乗って向かった先は、恢斗の一人部屋だった。
「すぐに荷物はこちらに移動させろ。部屋は一つで良いだろ? 校則でも、番同士や許婚同士の同室は認められている」
「……」
「寧ろ最初からそうすれば良いものを」
ネクタイを引き抜いた恢斗はそれを投げ捨てると、僕を寝台に縫い付け、強引に服をはだけた。そして首筋に吸い付いた。
「ぁ、ア……え……え、え? ま、待って」
「待てねぇな」
「どうして、だって、あ……ン――」
その時、うなじを強く噛まれた。僕の体がグズグズに蕩けた。
「俺に会いに来たと思っていいんだろうな? ん?」
「あ、あ、っぅ、ん、うん……で、でも、ぁァ」
「でも?」
「こんな、まだお風呂も――」
「可愛い事は気にしなくて良い。好きだ、愛してる、紫樹。会いたかった」
「全然帰ってこなかったのに、ひゃ!!」
乳頭を噛まれて、僕は背をしならせる。ゾクゾクする。もう一方の手では、性急に後孔へと指を挿入された。それをかき混ぜるように動かされながら乳首を吸われ、僕は思わず首を振る。
「あ、あ、あ――っ、や、出ちゃ――んン――!!」
僕の放った白液が、恢斗の腹部を汚した。すると指を引き抜き、それごと服を脱ぎ、恢斗が既に張り詰めていた陰茎を、僕の菊門へとあてがった。
「あ、っ、あ、あ、あ」
「俺としては――最初が最初だったからな、明確にお前の心が定まるまで、あるいは結婚するまで待つつもりでいたんだぞ」
「んン――!! あ、ああ!」
深々と穿たれて、僕はボロボロと泣くしか出来なくなった。
「が――この『俺様』のテリトリーに踏み込んできたのは、お前だ。紫樹。今後はもう、容赦しない。我慢もしねぇ」
「ああ、ッ、ん――ぁ、ァ、ああ!! あ――!」
激しい抽挿が始まり、僕は無我夢中で恢斗の首に抱きついた。すると首筋を舐められた。
「好きだ。俺だけを見ろ。俺以外を見たら、絶対に許さない」
この日僕は、散々抱き潰されたのだった。
あんまりにも激しくて、途中から記憶がない。おぼろげには、何度も何度も交わっていた事だけ想起できる。
次に目を覚ますと、僕の部屋に送られていたはずだった荷物の移動も済んでいて、僕はこの日から、恢斗と同じ部屋で暮らす事に決まったのだった。
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