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【二】初登校日

 気怠い体を引きずって、僕は授業初日を迎えた。本日は、入学後テストのみで終わりだ。放課後は、部活や委員会、親衛隊の見学らしい。僕は、風紀委員会の見学に行く決意をしているのだが、腰も重いし、やる気があまり起きない。  なお、テストは簡単だった。  僕の席は、一番後ろの列の窓際だ。僕以外の二名の編入生が右とその右にいる。  ――入学式で悪目立ちしたせいだろうが、初日から僕には、容赦ない視線の雨が降り注いだ。だが、僕の横に、休み時間は全て恢斗がいたので、盾になってくれていた。なお偶然、風紀委員長は僕の前の席だったので、ある意味こちらも盾である。 「紫樹、本当に風紀に入るつもりか?」  放課後。  恢斗が嫌そうな顔で僕と、風紀委員長を交互に見た。僕が小さく頷くと、恢斗が僕の耳に唇を近づけた。 「やはり俺の事を憎んでいて恨んでいて嫌いで、復讐のつもりか?」 「え?」 「仮にそうであるならやめておけ。俺は、お前にならば何をされても良い。ただし浮気だけは――」  と、何か恢斗が言いかけた時、僕達の顔の中間あたりで、バシンと風紀委員長が手を叩いた。 「校内での不純交友は禁止だ」 「っ――二階堂。一度だけ言う。紫樹を頼む」 「承知した。そんなに好きか? どこが好きだ? 出会いは? 幼少時からの許婚なのか?」 「もう一つだけ言っておくが、万が一紫樹を奪おうとしたら、絶対に容赦しないというか死んだほうがマシな目に合わせてやる」 「安心しろ、それはない。俺はノーマルだ。例え相手がΩであっても、同性には食指が動かん」 「……発情期には絶対に無理に風紀の仕事をさせたりするなよ」 「無論そんな事はさせないし、俺はラット抑制剤を常用している」  そんなやりとりをし、頷いてから恢斗が僕に向き直った。 「二階堂に酷いことをされたら言え。されなくてもなんでも言え。じゃあな。俺様も仕事に行く」  そう言うと恢斗は、僕の頬に触れ、額にキスをし、教室から出て行った。  はっきり言って、複雑な気分である。 「今のは不純交友じゃないの?」 「今のはギリギリ許容範囲内とする」  そのまま、教室には、僕と二階堂相風紀委員長こと趣味友の二人だけとなった。 「まぁ、俺しか見ていない場所なら、そこが禁止区域でなければどんどんやってくれ」  さて何友達か――無論、腐男子友達である。 「まさか紫樹が、あのバ会長の許婚のΩだとはなぁ。あ、気を悪くしたか? 俺様会長の! 宝灘の! ああ、でも――尊い!」 「僕も自分で萌えたり萌えられるために来たんじゃなくてさ……」 「分かっている。みなまで言うな。既に今季期待のCPはリストアップしておいた。同時に人気者ランク、抱きたい・抱かれたいランキングも記憶できるだろう」  カバンから取り出した書類を、ばさりと風紀委員長が僕の前に置いた。思わずうっとりしながら、僕はそれを見て、何度も頷き、即座にカバンにしまった。今夜の楽しみはこれだが、部屋には恢斗もいるんだった……。 「やっぱり生徒会長と風紀委員長が、抱かれたい人ランキング一位なの?」 「――そうだな。宝灘恢斗、すなわちお前の許婚は非常にモテるぞ。油断しないように」 「……別に、僕達の間には、愛があるわけじゃ」 「その割に、首がすごいことになってるが、大丈夫か?」  風紀委員長が生暖かい眼差しで僕を見た。僕は思わず、赤面して俯いた。首付近の見えるところに、沢山のキスマークと噛み傷がついているのは、僕も理解している。本当に派手なものには絆創膏を貼ったが、小さいものまでは隠しきれなかった。 「何様俺様バ会長様の、唯一の取り柄の、身持ちが硬い理由がやっと分かった。本命がいたというわけだな」 「……」 「で? 俺達は友達だろう? エリンギ×白菜について語り合った仲だろう? 教えてくれ。出会いは?」  風紀委員長が良い笑顔になった。僕は両手で顔を覆った。 「――と、言う感じで」 「うん。清々しいほどまでに、バ会長による犯罪だな。どうして絆されてしまった! 確かに奴はイケメンだ。しかしながら人間は顔ではない」 「や、優しい所もあって……」 「あの俺様に? 確かに先ほどは、紫樹のことを俺に頼んではいたが……具体的には?」 「親睦を深めようとしてくれたり」 「それは許婚ならば当然じゃないのか? 俺も許嫁には、そういう対応を心がけるぞ?」 「許嫁がいるの?」 「二次元に、大量にいる」 「あ、はい」  僕はなんて言えば良いのか分からなかった。風紀委員長は僕のBL道の師匠といえるくらい奥が深い。 「でも風紀委員長は女の人だけなんだよね?」 「ああ」 「BLは二次元だけなんだよね? つまり男同士の恋愛に関しては……?」 「俺は性別受けを愛している」 「ちょっとよく分からないかな」  そんなやりとりをしていると、帰宅部生に下校を促すチャイムが鳴った。そこで一度、風紀委員室へと挨拶に行く事とし、僕達は教室から出た。 「――で?」 「あ、あ、あ――っ、それだけ、それだけだから! あああ、や、あ、やぁああ!」  夜。  僕は後ろから激しく責め立てられていた。僕のうなじをガシガシ噛みながら、意地悪く恢斗が聞くのだ。風紀委員長と何を話したのかだとか、そういう話を。 「本当だな?」 「うあああ、乳首やめて、待って――!!」  深く挿入したままで、僕の右乳首を摘みながら、恢斗が意地悪い声で言うから、僕はもう泣く事しか出来ない。 「じっくり開発してやる」 「あ、あ、あ」 「飛び込んできたのはお前だ」  この夜も僕は散々、体を暴かれた。自分がいつ意識を飛ばしたのかを、僕は覚えていない。だから僕は、恢斗の最後の呟きも聞いていなかった。 「――生BL? 王道学園? なんだそれは」

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