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【八】副会長と会計の来訪

 翌日の放課後。  僕は、二階堂と共に初めての見回りをする事になった。二階堂おススメの腐的な観察スポットから、真面目に強姦多発スポットまで、一つ一つ丁寧に教えてもらった。注意をする事もあったが、そうして生徒二名が去った後は、『あの二人も萌える』という二階堂による解説が入り、僕は心の中でメモをした。  そうしていると、時が過ぎるのはあっという間で、風紀委員会室に帰りついた時も、もっと歩いていたいと思ってしまった。長年家の中で過ごす事を命じられていた僕だから、そういう意味合いでも、歩いてみてまわるというのは新鮮でならない。  明るい気分で寮へと帰ると、既に恢斗の姿もあった。  恢斗は予習をしていたらしい。 「帰ったのか。機嫌が良さそうだな」 「そう?」 「ああ。俺様がお前の表情を見間違える事は無い。何かあったのか?」 「ううん。見回りが楽しかっただけだよ」 「……二階堂と一緒にいたのが、楽しかったと?」 「へ? まぁそうだけど、含みはないよ」 「……」  恢斗の目が据わった。何か言いたそうに、じっと僕を見ている。実際、二階堂の腐的な解説は楽しかったんだから、そこに嘘はつけない。でも、恢斗に誤解させたいわけでもない。難しいなと思いながら、僕はソファの上に鞄を置いた。  ――部屋のインターフォンが鳴ったのは、その時の事だった。  僕が視線を向けると、恢斗もまた同じようにエントランスへと顔を向け、静かに立ち上がった。今まで僕達の部屋に誰かが来た事は無い。なんだろうかと考えていると、インターフォンのモニターの前に立った恢斗が、片目だけを細くした。 「副会長と会計だ」 「え? それって、王道生徒会と噂の!? つまり、腹黒副会長とチャラ男会計?」 「この二人には、確かにそう言う側面があるが……それは二階堂が吹き込んだのか?」 「あ、その……」  王道学園の鉄板のテンプレートだとは言いにくい。僕は曖昧に笑って視線を揺らした。  すると恢斗が嘆息してから、エントランスの扉の前に立った。  そうしてドアの鍵を開け、扉を押す。するとそこには、色素の薄い茶色の髪をした、王子様のようにキラキラした風貌の生徒と、長めの黒髪が洒落ている見るからに空気が緩くチャラっとした生徒が立っていた。本物だ。すぐに僕には、どちらがどちらか判別できた。 「なんの用だ?」 「急ぎで確認してほしい資料があったので、持ってきたんですよ。恢斗、中に入れてもらえませんか?」 「カイチョーの婚約者にも会いたしねぇ」  にこやかな副会長と、間延びした声の会計。  その二人に対し、恢斗は辟易したような顔をした。 「急ぎならPDFをドライブで送信してくれたら良かっただろ」 「きちんと確認している姿を見たかったもので」 「というか、カイチョーの愛する相手が視たかったんだけだけどぉ」  三人のやり取りを聞きながら、僕はそれとなくお茶の用意をした。紅茶の用意を終えた頃には、恢斗と共に二人が入ってきた。リビングのソファに四人で座る。 「紫樹、紹介する。副会長の、高渚碧海(たかなぎさあおみ)と、会計の、樋岡真緒(ひおかまお)だ」 「お初にお目にかかります。深凪紫樹と申します」  僕は一応、学園で通すつもりの苗字を名乗った。すると二人は、微笑している僕を見て、一度息を呑み、目を見開いた。だがすぐに我に返った様子で、二人とも微笑を返してきた。 「はじめまして。高渚と申します。生徒会では副会長として、恢斗の右腕として務めていますが、別にそこに個人的な感情は微塵もありません」 「俺は樋岡。会計だよぉ。よろしくね、紫樹ちゃん」  本物の副会長と会計の出現に、カップをそれぞれの前に置きながら、僕のテンションは最高潮に達した。見るからに、王道だ。 「それにしても、恢斗に、こんなにも美しい許婚がいたなんて。僕は知りませんでした」 「俺もぉ。カイチョーも言ってくれれば良かったのに」  二人はそう言うと、恢斗を見た。恢斗は書類に視線を落としたまま、不愛想な顔をで瞬きをした。 「紫樹が気になるのは分かった。でもな、手を出したら社会的に殺す」  低く水のような声音だった。しかし副会長と会計の二人に怯む様子は無かった。  物騒だとは思ったが、恢斗のこういう姿にも、二人は慣れているのかもしれない。  いいなぁ、僕は会長×副会長とか、会長×会計も好物なのだったりする。  まぁ……その会長が恢斗なわけだから、僕は浮気はされたくないけど。本当に複雑すぎる心境だ。生BLが見たい一心だったけど、今改めて考えても、恢斗が会長だというのは予想外過ぎた。 「貴方と敵対する意図はないですし、それが高渚家に良い方向に働くとは全く考えていませんよ。その上……桐緋堂家の方に手を出すなど、畏れ多すぎます」  副会長は恢斗に向かって断言してから、改めて僕を見た。僕の生家を知っているらしい。しかし残念ながら、僕には高渚家というのは初めて耳にしたし、知識がない。 「俺も俺もぉ。全然興味は――あるけど、カイチョーと紫樹ちゃんの仲を引き裂きたいとか無いし。安心してよぉ、俺はそれに、相手に困ってないからね」  二人の言葉に顎で頷いてから、恢斗が書類を副会長に渡した。 「問題はないと思う。だが、この内容を、急ぎで直に確認する必要は感じなかったぞ」  不機嫌そうな声音に、二人がほぼ同時に吹き出した。  その後は雑談をし、副会長と会計は帰っていった。見送ってから、深々と恢斗が吐息した。 「悪い奴らじゃ無いが、紫樹が他の奴に関わるのが俺はあまり好きじゃないらしい」 「そうなの? 僕は楽しかったけど」 「お前を一番に楽しませるのは、俺でいいし、俺様との時間を一番楽しんでほしいぞ」 「うん。恢斗と一緒にいるの、僕は好きだよ」 「最近素直になったな、紫樹は」 「……恢斗の事が好きだなって、再確認しちゃったからかな」 「もっともっと、好きになってくれ。全然足りない」  恢斗は僕の肩を抱き寄せて、そう言った。なんだか照れくさかったけれど、恢斗の気持ちはとても嬉しい。それから僕達は、夕食にした。

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