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いっときの幸せを掴んだ気がした1

 雨が降り続く梅雨の日のことだった。  自宅で仕事をしていたが、考えに煮詰まっていた俺は息抜きも兼ねて外に出た。雨の中出歩くことは好きではないが、これ以上家にいても息苦しさしか感じられそうになかった。  土砂降りの雨の週末夜、そこそこ賑わいのある場所でも歩いている人は全くいなかった。  店は割と選び放題といったところであるが、そのどれもが安酒を流し込む、騒がしいといった印象を与えるところである。他人の声で何かアイディアが浮かぶかもしれないが、正直俺はそういった場所が苦手なので、他に落ち着けるような場所がないかひたすら探していく。  靴の中が雨水で濡れていき、不快感がどんどん増していく中、小さな通りを曲がったところに不思議な趣のバルがあった。地味な見た目は多くの人が通り過ぎてしまいそうだ、と思いながらも、俺は自然と身体をそちらへ向いていた。そして傘を畳みながらドアを開け、来客を告げるベルを鳴らす。

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