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いっときの幸せを掴んだ気がした2
一歩店内へ入ると、たった一つ扉を隔てているだけにもかかわらず、まるで別世界が広がっているようだ。名前も知らない静かな音楽が、薄暗い店内を俺好みの心地いい空間にしている。
不快感を一瞬のうちに忘れさせ、俺の心はすっかり舞い上がっていた。傘を手にしながらほとんど誰もいないカウンターの端の席へ座る。小さなメニューを見ながら何にしようか選んでいると、おしぼりを持った店員がやって来る。
また店員を呼ぶのは面倒だ。咄嗟にそう判断した俺は、ぱっと思い付いたものを注文した。
「カシスオレンジをお願いします」
「かしこまりました」
短いやり取りを終え、すぐに俺の前から立ち去っていった。
初めて来る店ではあるがなかなかよさそうだな、と目の前に広がる数々のボトルを目にして思う。万人に受け入れがたい雰囲気が俺にはぴったり合ったようで、この場で感じられるものがとてもいい。あまり酒は詳しくないし特別飲めるわけでもないが、何かしら挑戦してみたいものだ。ここに通い詰めようかと検討する。
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