15 / 63
壊れる
桐生の相手のΩがあのパーティーの中にいたってことだろうか。
だけど、桐生は気がついてなかったってことだろう。
このまま気が付かずに、出会わなければいいのに。
以前までは桐生の香りに惹かれていたのに、なぜだろうこんな症状が現れるようになったのは。医者の見立てではしばらくすれば治ると言っていたのに。治っていたのに再発して拒絶するなんてことがあるんだろうか。
ため息をこぼして目を閉じた。
数時間して吐き気も頭痛も治った。
時間を見ると真夜中だ。流石に桐生ももう寝ている。
スマホで明日の予定を送ってシャワーを浴びた。
さっぱりして着替えるともう一度ベッドに入ったが眠気は訪れなかった。
朝早い時間。ホテルのロビーに行って桐生の部屋の鍵をもらった。
少し早いけど、昨日心配させてしまったからもう大丈夫だと伝えに行こう。
桐生の部屋はセミスイートだ。
『カチャン』と軽い音がして鍵が開く。ドアを開けた。
「え? な、なんで……」
急いで中に入った。セミスイートは2部屋ある。入ってすぐのリビングにまで溢れ出している。
寝室のドアノブに手をかけた。
誰か他の人がいたら。
桐生の運命の番がそこにいたら。
桐生の香りだけじゃない。
むせ返りそうなほどの甘い香りは桐生のものじゃない。桐生の香りはするけど、これは……Ωだ。
ドアを開けるとベッドには1人分の膨らみがある。続きになっているバスルームから水音が微かに聞こえる。
「誰だ」
そっとベッドに近づくがすっぽりと布団に入っていて誰がいるのか、男性か女性かさえもわからない。
「沢木?」
声をかけられて振り返ると濡れた身体にタオルを腰に巻いて髪を拭いている桐生がそこに立っていた。
「桐生、どういうことですか?」
僕と番になってからは桐生は誰も相手にしていなかった。それは約束というわけではなかったけど、なんだろう、とても裏切られた気持ちで胸が苦しかった。
「これは、俺の運命だ」
桐生の言葉に衝撃を受けて次の言葉が出ない。桐生は、「まだ寝かしておいてくれ」と言ってリビングに向かう。僕は桐生を追いかけた。
「運命って……運命って、どういうことですかっ」
服を着ている桐生に迫る。
僕は、僕は、僕という番がいるのに、どうして。
どうして出会う。どうして、Ωに手を出した。
僕には触れようともしないくせに。
「もう、手放すことはできない」
桐生が絞り出すように言葉を発した。
「桐生っ、僕は、僕はどうなんですかっ」
桐生の服の胸を両手で掴んだ。
ともだちにシェアしよう!