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壊れる
だけど、桐生が結婚すると言いいだしたらそれを祝福はできないだろう。桐生に運命の番が現れたら身を引く。
運命の番。曖昧でしかない都市伝説のような話だ。
だけど、一縷の望みをかけているΩもαも少なくはない。
ふっと甘い香りがした。
「桐生」
呼びかける桐生は既に別の相手と話している。とても欲情するような相手には見えない。だけど、確かに甘い香りがする。
番相手以外のフェロモンは感じないはずだ。
ここには他のαもいる。
甘い香りがする。
どうして。
目の前の桐生のスーツを掴んだ。桐生は慌てて振り返る。
「どうした?」
ブワッとΩのフェロモンが溢れる。
桐生の香りがする。
「沢木。いくぞ」
慌てた桐生が僕の腕を掴んで会場を出る。
「吐き気が、する」
会場から出ると途端に吐き気に襲われた。
それはひどくなる一方で、桐生に支えられるようにエレベーターに乗り込んだ。
もう甘い香りはしない。だけど、吐き気は強くなる一方で頭痛もしだす。
「突然だな。大丈夫か?」
心配する桐生に、「わからない。突然甘い香りがして……」というが、「俺じゃない」と桐生が否定した。
「シャンパンの飲み過ぎじゃないか?」
「……そんなに、飲んでない」
部屋のある階で降りて胸ポケットからカードキーを取り出す。
「もう、大丈夫。桐生は会場に戻ってください」
「ああ。でもダメな時はすぐに呼べよ」
桐生は僕のスーツのジャケットを脱がすとベッドに座らせて、設置してある簡易冷蔵庫から水のペットボトルを取り出すと蓋を開けて渡してくれた。
「もう、甘い香りはしない」
僕のフェロモンもでてはいない。
すっと引いた熱。
「アルコールがいけないのかもな」
受け取った水を飲んだ。桐生は「もう少し仕事してくる」と言って部屋を出て行った。
吐き気と頭痛。しばらく収まっていたのに、なんでこんな所で。
ネクタイを緩めて抜き取るとジャケットの置かれた椅子に投げた。そのままベッドに倒れ込む。
『俺じゃない』ってどういうことだろう。
桐生しか感じないはずなのに。桐生だけしか感じないはずなのに。
なんで隠したりするんだ。
僕以外に発情したってことは、あの中の誰かが運命の相手なんだろうか。
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