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1_ぐみぐみ
グミを口にほりこんだ。
もぐもぐして、それから飲み込んだ。
真面目な鞄の、内側のポケットにしまった。
ひとつだけつけたマグネットピアスも外して、しまった。
メガネを出して、かける。
スマホを出して、インカメラで髪を整えた。
インターフォンを押して、笑顔で、明るい声で、大きなお宅にお邪魔した。
「こんにちは」
高2の女子はナイーブ。
可憐なアプローチ、俺は毎週、華麗に回避する。
七三にゆるく分けた前髪と、黒縁のメガネと、キャメルのベストが、完全に罠。
微笑んで「よくできたね」リーサルウエポン。
別に、好きでこんなことしてない。
そんな、いたいけな女の子をどうにかしたいわけじゃない。
せっかくなら、単純に勉強真面目にしてくれて、あたまよくなってほしいって思ってる。
妙に寄せつけてしまう見た目と、猫をかぶる癖と、あと、
「リョウ先生」
コンプレックスの名前。
そのコンプレックスはこれまた妙に、あまく響きわたる。
1時間の家庭教師のバイトを終えたら、花屋さんの奥まったとこにあるカフェに行く。あの人が待ってるから。
真っ黒な長い髪を、今日は結ばずにさらさらのまま。襟ぐりのあいた服なんか着てるし細いから、一瞬女に見える。
「大佑」
「…あ、お疲れー」
店員さんにコーヒーください、って言って、座って、メガネを外して、髪をくしゃくしゃ触った。
「あーあ、せっかく清楚な雰囲気だったのに。清楚レベル、-3。残念」
「一瞬さ、さっき大佑が女に見えてテンション上がった」
「まじで?うける。なんで?」
「髪さらさらだし、襟がえろいから」
「リョウちゃんは素直でよろしい。今日はじゃあ、お姉さんが可愛がってあげる」
「声がジジイじゃん」
「この野郎」
コーヒーをひと口飲んだ。
きれいな大佑の、少し垂れた甘い目を見た。
ジジイなんて言ってごめんね
大佑はまだジジイじゃないよ
って、心の中で言った。
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