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遙はいつも通り自分でマットレスを敷いて眠った。 「遙っていつも可愛いけどさ、寝たらほんとやばいよね」 「ですねえ…なんか、あどけなくなるのかな」 「ね。寝ぼけてるときにさ、天使ですよーって遙のこと紹介されたら、ちょっと信じちゃいそう」 「えー、それはどうかなー」 「なんかさ、透が遙のことをモデルにしたいっていう気持ちが分かった気がするんだよね、俺。だからさ、もし俺が本当にドイツに行くって決めたら、遙のことたくさん描いて、それでどんどんスキル上げてよ!」 充さんのことを抱き寄せた。 「行くとしたら、ずっと帰ってこないですか?」 「……正直、まだなんにも考えてないの。呆然っていうか…まさか、声掛けてもらえるなんて思ってなかったから…でも、透にはちゃんと話しておけばよかったよね、ごめん、」 「謝ってほしいんじゃないです。もしずっと海外で活動するんだとしたら、僕は恋人として、どうやって充さんのことを大切にできるかなって…そういうの、ちゃんと考えたいなって思って」 ベッドの縁に並んで座った。 「今は離れてても顔見て話せるし、寂しくない…って言えば嘘になるけど、大丈夫。なんとかなります」 「……心強いな。ほんと俺、透とこうやって一緒にいられて、嬉しい、」 充さんは僕の肩に寄りかかった。 「行くと絶対得るものがある!って気持ちとね、あー、ずっと透のそばにいて、ダンサーとして自分で活動広げていけたらいいよなー!って気持ちがね、ずっともにょもにょしてんの………大学でやってきた公演も評価してもらえてるんだ。外部の人も観に来てくれて、批評書いてくれて、雑誌とかネットで紹介してくれたりとか…だから、全然向こう行かなくても、普通にダンスは続けていけると思うし、こっちでいろいろできると思うんだ」 顔を覗き込んだ。目が合う。 「じゃあ行かないで。ずっと一緒にいたい。すぐに会って、触れられるところにいたい」 「透、」 「……って、言いたくなっちゃうじゃないですか!…本音ですけど。行かないでほしいのも、ずっと一緒にいたいのも」 唇を触れ合わせるだけの、小さいキスをした。 「僕は大丈夫。離れることになっても、ずっと充さんのことが大切だし、」 「女の子とどうにかなったり?」 「しません!もう……しないですって…」 「へへ、また怜のモデルするから、イモっぽさがゼロになっちゃうじゃんね。あーあ、透くん」 「やめて下さいよ…!」 「あ、指輪ほしい」 「お揃いの?」 「うん、お揃いの。ちゃんとお店で試着して買いたいな。いい?見せびらかしたいの、俺の彼氏だぞー!いいだろー!って」 思わず口元を押さえてしまった…にやけが止まらん…! 「明日行きましょう」 「え!明日?いいの?」 「うん。すぐにでも欲しいです、僕も」 「あはは、かわいい」 「早く寝て、遙のこと家まで送りがてら早めに出発したいな」 充さんを引っ張って、ベッドに一緒に寝転んだ。 腕枕をして、顔中にキスした。 「絶対ですよ、指輪」 「ふふ、うん!絶対」 唇にキスした。長いキスになった。 「おやすみなさい」 「おやすみ、愛してるよ」 そう言って瞼を閉じた充さんの美しい顔を目に焼き付けるように、僕は少しのあいだ見つめた。 どこにいたって、充さんは僕のミューズ。 むにゃむにゃ動く唇にキスをして、僕も目を閉じた。 ○おわり○

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