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第5話

「お疲れ様です、黒ネギさん、リョウスケさん」 合わせの日、現地の最寄りの駅で待ち合わせした肇は、既に来ていた二人に挨拶をした。 するとリョウスケはまたしても、スマホで無断で肇を撮る。 「ちょっと? なんでコスしてないのに撮るんですか」 肇が口を尖らせると、黒ネギが「お前ほんと、ロンギヌスのこと気に入ってんなー」と笑っている。 三人は歩いて現地に着くと、早速着替えとメイクをしてスタジオに入る。リョウスケは現場を見ながら、どう撮ろうかとあらゆる角度でカメラを構えていた。 三人が来たのはコスプレ専用の撮影スタジオだ。色々なセットがあり、全部の場所で撮りたいと思うほど、造りが凝っている。 「ってか、さすがだな。俺の身体にピッタリだし動きやすい」 黒ネギに衣装の出来を褒められて、肇は照れる。頑張って作った甲斐がありました、と言うと、またその表情をリョウスケに撮られた。 「おいリョウスケ、ロンギヌスばっかり撮るんじゃない」 「悪い。可愛いからつい」 肇は苦笑する。この二人は仲が良いなと思っていると、黒ネギが肇の隣に来る。 「俺も一緒に撮れよ」 そのセリフと同時にシャッターがおりる。いきなり始まった撮影に、肇は意識を切り替えた。 二人はアイドルで、両片想いの作品だ。黒ネギを見つめる肇、肇を見つめる黒ネギと、作品に合ったシチュエーションを撮っていく。 (ってか、身長とか考えてオレが受けのキャラやってるけど、黒ネギさんは背が高いからキャラクターとのギャップが……) 肇の身長は165センチと、男にしては低い方なので、身長差を違和感ないようにするには、とか考える。 「ロンギヌス、仰向けになって」 リョウスケから指示される。言う通りに仰向けになると、頭を合わせるように黒ネギも寝そべる。 (なるほど、上から撮るんだ) リョウスケはいつの間にか借りてきた脚立に登って、ピントを合わせる。 その状態でいくつかのパターンを撮ると、肇は寝そべったまま、黒ネギが押し倒したような体勢になる。さすがにこれは少し照れたけど、リョウスケが満足気に「良いものが撮れた」と喜んでいたので良しとしよう。 (……黒ネギさんって、イベントの時はアレだったけど、元々は結構イケメンだよなー) 先日のモバイルバッテリーコスを思い出して笑う。 黒ネギはメイクもそこそこしているが、本当に今日のコスプレのキャラクターに近い顔立ちをしている。肇のように頑張ってメイクしなくても成り立つのは、正直羨ましい。 (多賀もイケメンだけど、アイツはずっと笑ってるから柔らかい雰囲気のコスなら似合いそう) そう思って、はた、と気付く。 どうして今、湊が出てきたのだろう? 黒ネギから連想したからだろうか、と肇はそうに違いないと結論付ける。 「ロンギヌス……ってずっと呼ぶのも面倒だな。良ければ名前、教えてくれるか?」 カメラを構えていたリョウスケが言う。俺は本名をカタカナにしただけだからと言われて、肇は少し躊躇ったけど教えることにした。 「……(はじめ)です。黒ネギさんは?」 「レイヤーの怜也(れいや)ですー」 肇は怜也のダジャレに笑う。本名なんだから仕方がないじゃん、と怜也も笑った。リョウスケも漢字を教えてもらい、亮介と書く事が分かった。 「そうなると肇の歳も気になるんだけど。お前本当はいくつ?」 「本当はって何ですか? 十六歳の高一ですよ」 「まさかの一つ下!」 怜也の反応に、肇の回答が意外だったということが分かる。何故そんなに驚くのかと聞くと、怜也は気を悪くするなよ、と前置きをした。 「俺たち、お前の事中学生だと思ってた。いや、結構童顔だろ?」 さすがに小学生ではないと思っていたけど、と言われて、肇は複雑な気分になる。童顔なのは自覚があったけれど、まさかそこまでとは思わなかった。 それから三人でプライベートな話をしながら、撮影をしていく。 怜也と亮介は同級生で、元々カメラが趣味だった亮介が、怜也に誘われてイベントに参加するようになったこと。怜也は少女漫画が主に好きで、それに引かれて彼女に振られた事まで教えてくれた。 対する肇はと言うと、コスプレしてるときと普段と性格が違う事を話すと、意外にも亮介が食いついてくる。 「オレ、コスプレしてないとなんか上手く話せなくて。基本コミュ障なんです」 「何でだろ? 素を出すのが嫌なのか?」 「うーん……」 自分でもよく分からないので首を傾げる。コスプレ趣味がある事も周りに言ってないし、隠れオタクだと言うと、結構SNSで人気出てんのになー、と怜也に言われる。 「ま、それでもこうやって仲間ができてるんだから、良いんじゃね?」 そう言って、怜也が後ろから抱きついてくる。肇は手で怜也の頭を引き寄せるようなポーズを取った。 「良いね、好き合ってる感じする」 亮介が何度かシャッターをおろす。 「BLの世界なら、ここでお互い意識したりする展開だよな」 怜也が笑いながら言っている。さすがに現実世界ではないですよ、と肇は言うと亮介も笑う。 「怜也は夢見すぎなんだよ」 だから彼女にも振られるんだ、と亮介が言うと、うるせーと元気無く怜也は口を尖らせた。力が抜けたらしい彼は、肇にもたれかかってくる。 「ちょっと、重たいですよっ」 「あ、あっちのスペースでジャケ写っぽいの撮れるんじゃね?」 怜也は文句を言う肇を無視して、肩越しに指を差す。 離れて行った怜也の後を、肇は追い、楽しく撮影をしたのだった。

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