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第22話

しかし、次にバイト先に行った時には、湊には会えなかった。 シフトも入っていたよな? と確認するけれど、そこで肇は息を詰める。 湊の名前が前回のシフト以降、消されていたのだ。ついでに志水も。 肇は慌ててロッカーを見る。湊が使っていたハズのロッカーは、綺麗に片付いていた。 (え? どういう事だよ? バイトは今月末までじゃなかったのか?) まだ一週間程ある。肇が帰った後に、何かあったに違いない。 肇は着替えて店長を探す。 「店長」 「肇くん、おはよう」 「湊のシフト消されてるけど、どういう事ですか?」 ホールにいた店長は、肇の質問に苦笑した。 「少し早いけど、本人の希望で辞める事になったんだよ。それに……」 店長は視線を横に送った。そこにはスーツを着た男二人が立っている。 「肇くんにも話をしてもらいたいんだ、志水くんについて」 肇は訳が分からなくなる。この人たちは一体誰だろう? と思っていると、二人は警察手帳を提示した。 「え? 警察?」 何でそれが志水と関係があるのだろう? と思い、話を聞く。 「現行犯で捕まった子が、志水さんの名前を出したんだ、だから知っている事を話してもらいたい」 差し出された写真は、今回逮捕した人だと言う。見覚えはあるかと聞かれたが、全く見た事のない人物だった。 「じゃあ、志水さんに関して、金遣いが荒くなったり、大盤振る舞いしていたとか、ありますか?」 「いえ……そもそもそんなにシフト入ってなかったですし。……あっ」 肇は思い出した。志水が割のいい仕事を見つけたと言っていた事を。 「割のいい仕事を見つけたと言っていました。何の仕事かまでは言っていませんでしたが」 肇がそう言うと、警察官二人は顔を見合わせて頷く。 その後いくつか質問をされ、肇は答えると、二人は店を出ていく。 それと同時に、店長が椅子に座って項垂れた。 「あの、店長……」 「あの子は元々少年院上がりでね、犯罪を犯すならうちでまともな仕事やりなさいって拾ったんだけど……彼は変わらなかったな……」 苦笑する叔父は、血の繋がっていない肇の母の顔と、どことなく似ていた。彼自身、血が繋がらなくても温かい家族を知っている身としては、それを志水にも体感して欲しかったのだろう。 「肇くんには話しておくけど、彼は受け子の容疑で事情聴取を受けてる」 「受け子って……」 詐欺集団の、金銭を受け取り運ぶ役割をする人の事だ。組織の末端なので、大元が捕まることは難しいだろう。 「あの、今日ほかのスタッフは?」 「ああ、ごめん肇くん。君だけ話を聞けていなかったから、席を外してもらってた。もうすぐ戻ってくるよ」 肇はホッとする。しかし、それより気になるのは湊の事だ。 「湊は?」 肇は聞くと、店長は首を横に振った。 「私としても続けてもらいたかったけどね……警察官が来る前に親御さんから連絡があって。容疑者がいる店で息子を働かせられないって。あの子は警察関係者なのかい? 肇くんは何か聞いてる?」 肇は合点がいった。それで湊が自らバイトを辞めたのも分かる。 肇は湊の父親が警察のお偉いさんらしいと言うと、なるほどね、と店長は頷いた。 その後肇はいつも通りにバイトをこなし、家に帰る。 「……」 返事をしようと思ったとたん、会えなくなるなんてタイミングが悪すぎる、と肇はベッドに突っ伏した。 いっそ電話するか? と思ったけれど、やっぱり勇気が出ない。かといって、バイトで会えない以上、湊との接点は皆無だ。 「湊……何で会えないんだよ……」 そうだ、電話がダメなら、メッセージを送るのはどうだろう? そう思ってアプリを開くけれど、肇は首を横に振った。 (いや、オレは会いたいんだよ) そう考え、肇は今自分が少女漫画の主人公みたいな思考をしていた事に気付く。 かあっと顔が熱くなり、その場でじたばたともがいた。 (何だよ何だよ! こんなに感情が忙しいものなのか、恋って!?) 少女漫画やBLも読むけれど、主人公が悶々としている姿にキュンキュンしていた。けれど当事者になると、しんどくて疲れる。 「しんどい……けど、相手の事を考えずにはいられない……何だよコレ……」 胸の当たりは温かい。けれど苦しい。肇はまたじたばたと悶えた。 「よ、よし。とりあえずメッセージを考えるか……」 肇はスマホを持つ。すると、タイミング良く着信がきて、びっくりして思わずスマホを放り投げた。 「だ、だ、誰だよ! こんな時に!」 湊だったらどうしよう、恐る恐るスマホを見ると、アニメショップのダイレクトメールだった。 肇は力が抜けて、またベッドに突っ伏す。もう、こんな状態嫌だ、と足をバタバタさせた。 (いっそ、好きにならなきゃ良かったのか?) そう思って、いや違う、と思い直す。悶々と苦しいのが嫌なだけで、好きになったことは後悔していない。 何だか考えが堂々巡りだ。肇はスマホを置くと、こういう時は寝るに限る、と布団に入る。 疲れていた身体は、すぐに眠りに入った。

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