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王の帰還

「何これ……」 『…………』  かすれた声の呼びかけに空を見上げた。  驚きに声は出なかった。  ゴゴォォォオオオオオオッ  唸るような音と共に強風が吹き通った。  サァー……  霧が舞い降りたかと思った。  それが、ザァーっと地面を打ち付ける音に変わるのは瞬く間だった。 『カシャンッ』 『ガチャ』 「雨だっ」 「雨が降ってきた」 「龍だっ」  剣が地面に落ちる音と、兵の歓喜の声。  そして、空に浮かぶ巨体の名を呼んだ。 『…………』  耳に聞こえた声にしたがって、腰につけていたヴァレンから預かった剣を手に取った。  青い宝石が散りばめられたそれに雨が滴り、顔を流れた。 「ディディエ」  名前を呼んだのは直ぐ目の前にいたイグニスだ。すぐ横にはシャージュもいる。  そして、僕に向かって跪いた。  歓喜に湧いていた兵たちもそれに習って、片膝を着いて頭をたれた。  雨は激しさを増し、上がっていた煙は無くなった。 「…………誰だ?」  掠れた声が聞こえた。  持っていた小刀から滴り落ちた雨の滴が地面に横たわったシャルールの顔に滴り落ちていた。 「……シャルール?」  うっすらと目を開けたシャルールに慌てて跪いた。 「シャルール、気が付いたっ。イグニスさんっ」  目を開けたシャルールに滴る雨を手で払う。 「シャルっ」  イグニスを呼んだが、ケガを負っているせいだろう、シャージュがすぐそばにやってきて、シャルールの上体を起こした。 「すぐに手当てして……イグニスさんもケガして……早く、みんなを助けて」

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